最終話: 雲翻りし朔の頃
あの雲中の決戦から二週間。
鳥のジャンボはまだ一度も飛来しておらず、遙か上空を飛ぶ姿も目撃されていない。
逆に、空には季節外れの大きな雲がいくつも浮かび、まるでこれから雨季が始まるかのようだ。
皆の見立てによれば、今年は遅く乾期が訪れ、やや短く終わるのではないかと言うことだ。
『それはそれで次の雨季に悪影響がないか心配になってくるけどな』
「でも、間違いなく乾期を乗りきるのが楽になるわけだから、今だけは本当に助かるよ」
どうやら王都周辺も手酷く
しかし、イナゴに食い荒らされた
――きゃっ、きゃっ。きゃっ、きゃっ。
「わーい、ヒツジふわふわーっ! ひびのつかれがいやされるわぁ」
「早く替われよー。ボクはこいつを一周キメてからじゃないとお昼寝できないんだよー」
「メエエエエ」
すっかり村の児童遊具と化したメリーゴーラウンド――牧羊樹で
ようやくイナゴの後始末が終わり、ここ数日は比較的穏やかな日常が戻ってきた感さえある。
「もっと速く走んなさい、ハイヨー! ですわっ!」
「あんまヒツジを叩かんでやってくれんかね、
「んベェエエエ」
ときには、和やかな雰囲気が少しばかり削がれることもあるが。
……てか、我が姉であるところのクリス嬢には自分の
「あたま?」
「あー、はいはい。もっふる、もっふる……と」
今は僕ものんびり、午睡がてらナイコーンさまの頭を撫でさせられている最中だ。
「でざいあー、でざいあー……むむむむむぅ……ねーえ、白ぼっちゃん、もういい?」
「だめだよ。まだ一回もできてないじゃないか」
「だって、これ、つまんないんだもん。みんなしてファルのこと無視するんだもん。なんで? でざいあーでざいあーでざいあーでざいあー……」
あの後、両親からこっぴどく叱られたファルには、更なる厳しい
その一環として我が領主家での
と言っても、僕には取り立ててファルの手を借りたいことなんてないため、
見ての通り、そちらは非常に難航している。
はてさて、何がいけないのやら、初歩な精霊術さえ成功しない。あれ以来、ただの一度もだ。
「頑張れ。
聞けば、ファルは辺りに
『まぁ、明らかにやる気がなさそうだしな。だいぶストレスも溜まっていそうだ。これは気長に興味が向くのを待った方が良いかも知れないぞ』
「精霊術師が領地にもう一人いれば何かと助かるだろうけど……それがファルじゃねえ」
「でざいあでざいあっ! もぉやだぁ! んきゃーっ、オトモシャボテーン!」
「あたま……さわって?」
突如、奇声を上げたファルが、僕の
「ちょおっ! なんで飛び掛かってくるのさっ?」
「あははは! でざいあー!」
そうしてファルは、さながらボディプレスを繰り出すかのように僕へ激突してきた。
仰向けに押し倒されつつ、ふと空を見れば、すこぶる好天だ。この後は何をしようかな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
場面は変わる。
そこは、今現在のシェガロには知り得ないどこか別の場所。
窓の一つもなく明かりも灯されていない真っ暗な……おそらくは屋内の一室。
調度品どころか広ささえも知れないこの場には、ただ、ひそひそと響く小さな声だけがあった。
「――ということです。おそらく、精霊術師であることは確定と見てよろしいかと」
「
「そちらも確度の高い情報となっています。特級魔獣をたった一人で退けたというだけでも
「くすっ、まるでお
声は二つ……どちらも年若い女性のものと思えるが、
互いに言葉遣いは平民のそれでなく、
「それで……空を、飛ぶのでしたか?」
「まるで鳥のように身一つで
「どうでしょう。実際に会ってみなければ……いつ、
その問いに対し、
「……申し訳ありません。召喚に関しては難航し、未だとりつく島もなく」
「あら、
声は決して
しかし、投げかけられた側はやや緊張の
「下級とは言え、貴族家の嫡男となれば、年齢や立場も
「……
小さな
暗闇の中、物音一つ立たず、誰もいなくなったかのような静寂がどれだけ続いただろうか。
「ふぅ、待つしかないのでしょうね。これまでと同じように」
「非才のこの身をお許しください」
「似合わない
「は、はい。他の候補よりも優先度を上げ、
「よしなに」
と、一つの気配がこの場を去る。
後に残されたのは、先ほどまでとは比較にならない真の静寂。
それは、もはや気配すら感じられない闇そのものだった。
やがて、ポツリ……と。
「寒い」
「あなたはどこにいるのですか?」
「ここへ来て、私を見付けてください。名前を、呼んでください」
たとえ感情を込め、
「あなたが足りなくて……このままだと、私……
************************************************
第二部第一章はここまでとなります。
予定していたよりもボリュームが大増してしまい、ようやく一区切り付けることができました。
もちろん、お話はまだまだ完結しませんが。
次の第二章ではイケメンな新キャラが登場予定。
引き続き、お楽しみいただけますように!
それから、よろしければ、以下のリンクより★★★/レビューを是非。★1個でも有り難く!
https://kakuyomu.jp/works/16817330663201292736/reviews
今後も含め、もしも面白いところがありましたら、なんらかのリアクションを頂けると大きな励みになりますので、応援やフォローなども合わせ、いつでもお気軽にどうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます