第四十二話: 希望、シュールでナンセンス
呆然とする一行の前でぐるぐる、ぐるぐる、回る回る、それはまるでメリーゴーラウンド。
――メエェー、メエェー。
「なんだ、これ」
地面からまっすぐ立っている一本の太い支柱、頭上にはキラキラ光を発する大きな傘が広がり、その下を
念のため、断っておくが、ここは前世地球の
相も変わらず、異世界の
周囲を取り囲む湖には、いくつもの大きな魚影の他、悠々と胴体をくねらせて泳ぐバカでかい巨大蛇の姿なども見え、このメルヘンチックな光景の場違い感を更に助長してくれている。
つい先ほどまで、水の精霊術【
「……っハ! 驚いたよ! こいつはひょっとするとバロメッツじゃないかねえ!?」
と、いち早く気を取り直したジェルザさんが言う。
「なんだ、そのバロメッツ……というのは?」
「領主様は北の出だったかい! それなら聞いたことないかもね! この辺りの冒険者の間じゃ知られた笑い話……んんっ! どうやら冗談なんかじゃなかったみたいだけどさ!」
「へい、南方じゃヒツジは樹に実る。牧草も牧羊犬も羊飼いもいらねえ。畑で水だけやってりゃ羊毛が
生きたヒツジが
それは何とも夢のある話だ……が、目の前にはそんな光景が確かな現実として
改めて見てみれば、中心に建つ支柱はしっかりと地中へ根を張った樹木の幹だった。
広げられた大きな傘のような天井部は、綺麗に重なり合う
そして、ヒツジたちは、その枝の先端に繋がれ……いや、
高さ四メートルほどの幹に対し、体高八十センチの灰色っぽいヒツジが十二個も
「メエーエ」「んメェーエ」「メエエェェェ」
こればかりは、僕の目ではどう見ようとも、ごく普通のヒツジとしか
首の後ろから伸びている
「えっと、これってモンスターじゃないの……?」
「それより気になることが別にあるぞ。まず、これは食えるのか? 本当に水だけで育つのか? どの程度の間隔で収穫できるのだ? どうなのだ?」
「ちょ、ちょお! そこまでは知りやせんぜ。なんせ実在するだなんて思ってもみなかったんで」
「ぬぅん! どうあれ、是が非でも持ち帰らねばならんな」
察するに、こいつは例の
ダンジョンの外で飼育……いや、栽培が可能だとは思えないが、
「ちょいと早いけど、今日はここでキャンプを張ろうかね! 落ち着いて調べたら良いさ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、丘を探索してみると、更に同様の
どうやら頂上一帯が自生地になっているらしく、実を付けていない若木も
が、同時に、ここがヒツジを狙う肉食獣やモンスターたちの餌場であることも判明し、激しい戦闘が繰り広げられ……まぁ、それはあえて詳しく語るまでもないか。
苦戦はしたものの、さしたる被害もなく、すべて撃退したというだけで十分だろう。
そう言えば、本日二つ目、コユセアラ通算では三つ目の宝箱を見付けられたことも幸運だった。
「ひひっ、やったな。こいつは大当たりだぜぇ」
「何なんですか、それ?」
「驚け! これがあのブラッドアノマルルスの
「何ですか、それ?」
宝箱を開けた
色は赤、質感はビニールっぽく、特に風も当たっていないのにヒラヒラと
「ありゃ? 知らねえか? よく貴族のボンボンが欲しがる素材なんだけどよ」
「うむ、風属性の高級素材だな。【
「欲しいんなら、こっちに相場の半値いただくよ! 今回の探索で手に入れた物は山分けにする約束だったはずだからね!」
「分かっておる。悪くないな。考えておこう」
そんなこんなでダンジョン探索の三日目はなかなかの成果と共に終了したのだった。
……と、そうそう。念のため、収穫したヒツジの可食テストをしてみたのだが。
満場一致で、この果実は中身の肉もヒツジそのものだという結論を得た。
食事を
これ一頭……いや、一個で領民全員の腹を一日くらいは紛らわすことができる計算になる。
『三ヶ月以上も続く乾期を乗りきるには、これだけではまだ
「たぶん、乾期になったらヒツジは死……いや、枯れちゃうんだろうしね。だけど」
ようやく、僕らは
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何の説明もなく唐突に出てきた固有名詞【ブラッドアノマルルス】について補足。
興味のない方は読み飛ばしても問題ありません。
こいつは吸血コウモリっぽい特徴を持つ巨大なムササビとして考えています。
夜行性で、皮膜を使って宙を舞い、獲物を襲って血を吸うモンスターです。
大して強くはありませんが、めったに会えないレアモンという感じでしょうか。
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