第四十一話: 集られて宝出た沼畔
ぶんぶんと周りを飛び回る虫の大群は、先日のイナゴを思い出させた。
数で言えば数十匹かそこら、まったく比較にはならないものの、代わりに一匹一匹のサイズは桁違い、奏でられる羽音の
姿形は、この
しかし、一口にハエと
一方は、ツェツェバエと呼ばれる吸血性のハエである。
様々な精神障害と睡眠障害を経て最終的に死へと至る
他方のハマダラカは一見するとごく普通の
だが、こいつは地球において毎年二億人にも上る
ただでさえ恐ろしいそいつらが、体長十二センチほどにまで巨大化し、目にも留まらぬ速さで襲い掛かってくるのだから、虫を苦手としていない僕であっても、かなりキツイものがある。
「走れ! 走れ!
「「「うひいいぃぃ!」」」
マティオロ氏の
「ここが、水の近くでっ、良かったねっ」
『ああ、これは楽で良い。乾いた草原で火を使うわけにはいかないからなぁ』
「口を開くな、シェガロ! 舌を噛むぞ!」僕の背からマティオロ氏が叫ぶ。
超速度で突き出される細長い
後続のノブさんや三人の従士見習いたちにそんな芸当はできないが、
見れば【草刈りの
「ハッ!
「いやいや、もう効果が切れるんで! しっかり
一匹のハエが吐き出す黄ばんだガスを防いだのは魔法術【
あのガスには腐食性があるだけでなく、
それも、そこらの村人ならばいざ知らず、六人もの中級冒険者に通用するほどのものではない。
魔法術の防護、神聖術の癒し、各人の武技により、ハエと
ガスを吐き終え、空中でホバリングしていたハエを、すかさず戦士さんの刀が真っ二つにし、その隙を
「ふぅ、どうにかこうにか片付いたみたいだね。こんな沼に寄るんじゃなかった。普通サイズのハエと
「むぅん、ダンジョンの中だからか、相変わらず虫除けも効きづらいな。よし! すぐ
「いや! ちょいと待っとくれ! 領主様! 出たよっ!」
マティオロ氏による移動の
彼女の指が指し示す先を皆で追えば、そこには先刻までなかったはずの物体が出現していた。
こんな野ざらしの
「やったぁ! 宝箱だ!」
『うーん、何度見ても奇妙ではあるが、これがダンジョンというものなんだよな』
宝箱……と言うよりは、古代の墓地に納められた
あちこちに隠されていることもあれば、今のように、何かの拍子でいきなり現れることもある。
当然と言うべきか、何故かと言うべきか、ともかく、その中には様々な宝物が納められている。
動植物由来あるいは貴金属といった希少素材、人間の手では到底作り出せないような工芸品、強力な武具、そして、ときには、もはや奇跡としか思えない効果を持つ魔法の道具まで……。
「まるまる二日も探し回って、やっとこさ二つ目か。しけてやがるぜ」
「結局は数よりも中に何が入ってるか……だけどな」
「それにしたって、数が多けりゃ、それに越したこたァねえだろうがよ」
「……元来、
「まぁな……てか、まさかゴブリンどもにぶっ壊されちまってんじゃねえだろうな?」
何はともあれ、こうした宝箱こそ、今回のダンジョン探索における僕らのお目当てなのである。
たとえば、空腹になるまでの時間を百倍に延ばす魔法薬。
内部が蔵ほど広い異空間となっており、入れた物が腐らなくなる魔法の箱。
たった一月であらゆる作物を実らせる魔法の肥料。
いくら食べても減ることがない魔法の肉塊。
取っ手をひねるだけで無限に酒が出てくる魔法の樽……などなど。
『いや、そんな神話/伝説級とか言われる魔道具が都合良く見つかるとまでは思わないけれども。直接的に食糧調達へと繋がる魔道具が手に入れば上等。そうでなくとも、武具でも手に入れば、村人だけでここまで狩猟や採集に来られるようになるかも知れないしな』
「ひひひっ、鍵も罠も無いぜぇ」
「よし! 開けろ」
果たして、この宝箱の中にはどんなお宝が入っているのか……。
「お、こりゃあ!」
「なんだ? 何が入っていた?」
「水属性の魔石ですぜ、けっこう大きめの」
「ふむ、それは高く売れそうだな。他には?」
「これだけっすね」
「「「「「はぁ~っ……」」」」」
全員一斉に深い溜息を
近隣全域に
中途半端な換金物など、どれだけ手に入っても仕方ない。
大きな魔石ともなれば魔道具を作る際には役立つのだが、どちらにせよ今は不用である。
「またハズレかぁ。わざわざ
「そう易々と目的が達せられると思ってはいかんぞ、シェガロ」
『こうした
「ダンジョンの奥へ行けば宝箱の数も増えるらしいから、今後に期待しておくとするよ」
気を取りなおし、一行は小さな沼を
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