第三十六話: 汚羽根に浮かされる幼児
森のように密集した
ここからでは見えないが、眼下に茂る木々の中ではマティオロ氏や【草刈りの
「キィー……イ? ケタケタケタケタッ!」
『おい、早く何とかしてくれ! 鼻が曲がりそうだ。こんな奴ら、大したことないだろ?』
「どうにかしたいけどさっ! 意外に……面倒なっ、状況なんだよ! 臭いしっ! 汚いしっ!」
改めて言っておくと、現在の僕が位置しているのは地上から十五メートルほどの空中である。
実のところ、これは風の精霊術【
それですぐさま
「ヒヤアーッ! ヒヤアーッ! ヒヤアーッ!」
三羽揃って下方に位置取り、順々に空中でバック転をするようにして蹴り上げる連続爪攻撃。
それらは、幼児の僕が、こんな不安定な状態で受けきれるほど
スコップで
気分はおっかなびっくり狭い足場の上に立つ新米
しかも、やむなく上へ回避するしかない場面も多く、高度が更に上昇していってしまう。
「
極めてまずいことに、頼みの精霊術も上手く
絶え間ない攻撃と、奴らの
『こうなったら一か八か……いや、待て! 逆だ! 逆に考えるんだ、楽天家!』
瞬間! 頭の中に閃いたその発想に従い、僕は飛ぶ。
目指すべき下方ではなく、上方の太陽へ向かって!
「「「ケヒャッ……アーン!?」」」
一瞬の間、戸惑うクサイドリども。
だが、僕にとってはその一瞬だけで十分だ。
清浄な空気を思いっきり吸い込み、
「
背にした太陽よりレーザービームが照射されたかのように、眼下の景色を真っ白に染め上げる。
上方の僕を見上げていたクサイドリどもは、その強烈な光に眼を焼かれ、悲鳴をギャアギャア、羽ばたきをバッサバッサ、虚空で激しくのたうち回った。
しかし、それもまた、ほんの一拍の間の出来事に過ぎない。
「
元より、こんな
しっかりとした質量さえ伴う大気の塊【
僕自身も垂直に吹き下ろすその突風の
密集する枝葉の合間をザザザァ!と抜ければ、既にクサイドリは深い下生えの草に吸い込まれ、その底に広がる大地へと全身を打ち付けられたところだった。
だが、
五階建てのビルに相当する高空からの
「ギャーア! ギャーア!」
奴らはその場で羽ばたき、しゃがれた叫びを上げて
まぁ、樹木がひしめき合う
『かと言って、こんな下劣なモンスターを野放しにしておくわけにはいかないだろう』
「
近くにあった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風の精霊術による双方向音声通信は既に途切れてしまっている。
僕自身と他の
だが、まだ大して距離が離れたわけではないだろう。
いくら脳筋のマティオロ氏であっても、幼児を置いて遠く離れていったりはしない……はずだ。
と、よく耳を澄ませば、皆がいる方向はすぐに探ることができた。
木々の間を飛び抜け、そちらへ向かっていくと……そら、見えた!
数本の倒木により開けた広場を成す一画にて、
「あたまさわって!」
「ひえっ! また来た!」
「オラァッ! 邪魔だ! てめえらァもっと下がって
周囲に展開する【草刈りの
小さな……と言っても体長は
それが少なくとも十数匹、倒木の上から、
「なんとしても耐えしのぐんだよ! こいつらは殺せない! 傷さえ付けらんないんだからね!」
「次くれ! 魔術師!」
「――オーキヒ・ピリビ! 創世の
「あたま! あたまさわって!」
「どおおおっ……せえい! ハァ、ハァ……見た目の割りにパワーありすぎだろうがよ!」
一匹一匹はクリーム色をした毛玉のような、パッと見、強敵とは思いづらい姿形をしている。
……と言うか、それはそれとして。
『やっぱりあいつだ。僕はあいつを知っている!』
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