第十三話: 開拓村の食事風景
「今日の
母トゥーニヤの
いかにも宗教儀礼といった風であるが、この世界の上流階級では一般的な光景なのだと言う。
ただし、こんならしくもない貴族的一幕が我が家に定着している理由は、もっと切実なものだ。
なんせ、ここは水や食料が常に安全だとは限らない熱帯の開拓地である。
ヘタな物を口にすれば
とは言え、堅苦しいのはここだけだ。
「よおし! 今日は好きなだけ喰っていってくれ。お前たち【草刈りの
父マティオロの声が響けば、それから先の場はもう
「ノブロゴ、こっちの栓も抜いて、皆に
「へい、旦那」
二月に一度しか来ない行商頼みの蒸留酒まで開けられ、冒険者たちへと振る舞われていく。
「ひひっ、味がよく分かんねえぜ」
「だな……貴族と卓を囲んで一緒の皿で飲み食いするとか、まだ慣れねえわ」
「バッカ、おめえ! 他の貴族んとこで同じノリになっちまわないよう、そんぐらいにしてろ」
「あ、うちって、まだちゃんと貴族だと思われてるんですね」
「パパー! 私も何か飲みたーい!」
ノブさんに酒を注がれている彼らが口にするように、成り上がり貴族である
元々、大功を認められて
こんな状態で貴族らしさなど身に付こうはずがないというわけだ。
まぁ、中級冒険者ともなれば他の貴族家を知っているだろうし、切り替えるのも難しいか。
この世界、冒険者の社会的地位は相当高く、なんと、貴族に対して態度や言葉遣いを
「招待したのはこちらですし、マナーを気にするような料理でもないですから、あまり気にせず楽しんでください」
「おう! って、そう言う
「それなら私に取ってちょうだい」
「お、おう……お嬢はよく食うなあ……」
父と母に
テーブルの上の大皿に載せられた肉の塊をナイフで薄く
粗野な態度と
「うん! いつもながら
「そのうち、この肉は特産品になるかもなぁ、へへっ」
これは
草食性で割りと大人しい性質をしているのだが、体高二メートル以上に達し、
しかし、肉の
可能ならば牧畜化したいと思いつつ一向に
食べ方は、分厚く切ってステーキにしてしまっても構わないのだが、独特の臭みがあるため、
今朝のメインメニューは、そうして味付けした肉を主役とする二つの料理だった。
一つは布状の薄切り肉を太い串にゆっくり巻き付けながら
カラッと表面を炙られた薄切り肉が、内側にくるまれていくことで肉汁と
そのまま食べても良いし、さっぱりしたヨーグルトソースをかけて野菜やパンに挟むのも
もう一つはサイコロ状の一口大に切った肉をこんがり串焼きとした料理である。
同様に一口大に切って串焼きとした数種類の野菜が付け合わせに添えられている。
こちらは、かなりスパイスを
それでも、どっしりとした肉の旨みは、濃いめの味付けに決して負けてはいない。
シンプルでありながら、もう一方の回転
「ショー……シェガロ、そっちの串取って~」
「肉ばっかり食べ過ぎじゃない、クリス? 野菜も食べなよ。こっちのスープも、はい」
「んっ!」
最初から冒険者たちをもてなすつもりだったのか、今朝の食事は特別豪勢な上に品目も多く、メインの肉料理二品の他に塩味の冷たい野菜スープ、
付け合わせの野菜もピーマン、トマト、キュウリ……など彩り豊かだ。
パンは二種類、薄い
「うんめぇえな! 前から思ってたんだがよ、
「こっちの
「グレイトホーンの肉とハーブは本当にうちの数少ない自慢ですね。ヨーグルトもまろやかで、やっぱりミルクはもっと安定して欲しいよな……」
そうそう、ドリンクの
ちなみに先ほどマティオロ氏が振る舞ったのは葡萄から作られたラクと呼ばれる蒸留酒である。非常に高いアルコール度数と甘いハーブの匂いを特徴とする。値段もお高い。すごくお高い。
『ああ、そろそろ僕も酒が飲みたいよなぁ』
「お酒、飲みたいな……」
「ひひっ、
『はぁ、つらい……。こう見えて、僕は前世では結構いける口だったんだよ』
それはさておき、未だ貧しい開拓三年目の我が領地も、食事に関してはマシになってきた。
片手にパンを持ったまま、串焼き肉を串から直接頬張っていく姉の姿は欠食児童そのものだが、今時分の雨季であれば、見ての通り、たまに豪勢に腹一杯食べられるくらいの蓄えが出来るし、厳しい乾期であっても、僕らが飢えに苦しむほどの状況に
ふむ、スローライフってのは、こういう生活を言うのかも知れないな。
と、そんな考えが頭を
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