第十四話: ダイニング、僕の姉と妹
冒険者
「いいか、
「いや、それは
「へ、へへっ、今はまだ分かんなくても大丈夫だ。けど、覚えとくんだ。必ず分かるときが来る!
同席する冒険者の皆さんはと言えば、すっかり酒が回っていた。
見れば、もう
「す、すまねえなっ。こいつ、酒癖が良くなくってよ」
「おい、
「だってよぉ……俺は
「そこ! うるさいですわよ! ショーゴ、黙らせなさい! じゃなくてシェガロ!」
「クリス……。もういちいち言い直さないでショーゴって呼んだら?」
「それはちっちゃい子の言葉だもん! ですわ! あとクリスって呼ばないでちょうだい」
「
「ふん! デビュタントまでにお嬢さまっぽくなっとかないと社交界でナメられちゃいますもの」
「まだあと四年もあるんだから――」
「もう四年しかないのよ!」
この国では、貴族の令嬢は数え年の十六歳から社交界デビューすることになっている。
それに先駆け、新たに十五歳となる新参令嬢――デビュタントのお
そのため、その年の【
『それまでに支援なしでやっていける領地にしておかないとまずいしな』
「お城に着ていく服なんて持ってないから新しく作らないとだし、どれだけお金が掛かるのやら。礼儀作法なんかより、そっちの方が問題だよ。ああ、困った、困った……」
「困った……じゃ済まねぇんですのよ! ド恥かくのは私なんですからね!」
「いや、語尾や名前の呼び方より先に改めるべき点はたくさんあるよね、姉さんの言葉遣いには」
そんな話をしていると、酔い覚ましの氷水を運んできたノブさんから声を掛けられる。
「クリスタ嬢、シェガロ
奥のダイニングスペースへ視線をやれば、グラスを手にするマティオロ氏と目が合った。
そろそろ冒険者を
あとはいつも通りの家族の
「
「バッカ! 黙れ、お前! 酔いすぎだぞっ」
かなり出来上がってしまっている冒険者三人をリビングに残し、僕とクリスは席を立つ。
二人でダイニングの大きなテーブルの方へ向かうと、母トゥーニヤがジェルザさんとの会話を一時中断し、僕たちに空いている椅子を勧めてきた。
「ふふ、二人とも、もうお腹はいっぱいかしら? 一緒にデザートをいただきましょう」
「もしかしてお菓子っ!? やった! すごい! すごい!」
「「しゅごい!」」
うちではめったに食べられないお菓子が出ると聞き、姉妹たちのテンションが一気に上がる。
かく言う僕も、特に甘党でないにも
そんな子どもたちの姿を眺め、母トゥーニヤの微笑みが深まった。
食事中のため、いつも彼女が身に付けているベールが今は外されており、四人も子を持つとはにわかに信じられない少女のように可憐な素顔と光り輝く銀髪もさらされている。
両側を挟む双子たち、その隣に座ったクリスと並べば、美人四姉妹として通じそうだ。
「あまいおかし?」
「やわらかいおかし?」
「うふふ、どんなお菓子かしらね~」
こちら側の
父マティオロは、冒険者の魔術師さんと神術師さんを相手に酒を
三人とも口数は少なく、ちびちびスローペース、もう割りと酔っているのかも知れない。
母の相手から解放されたジェルザさんも気付けばそちらへ加わっていた。
――カチャカチャ。
住み込みで家事をしてもらっている、我が家で
あまり見た目に特徴がない普通のおばさんといった印象だが、今朝のメニューを見てもらえば分かるように料理の腕は
彼女はたくさんの小皿が載せられた銀色の
そして、僕たち一人一人に前に小皿を一つずつ置いていく。
「……チョコだ」
「「わぁ! あま~い豆だぁ!」」
マティオロ氏と酒を飲んでいた神術師さんが
一つの小皿に三個ずつ入っているのは、チョコレート色をした
これまでにも何度か食べたことがあるので知っている。
『確かに、質素な生活の中だと、こういう甘味にはテンション上がるよな』
「うん、僕、これ好きなんだ」
と、手を伸ばそうとした瞬間!
――ひょい! ひょひょい!
いきなり伸びてきた手により、一瞬で三個のチョコ玉がさらわれていってしまう。
ノブさんやジェルザさんの不意打ちにさえ
それは隣で
「……え? クリス、ねえ……僕の分だよ?」
「なんのことかしら? さくさく、もぐもぐ」
「ラッカ、ルッカ……それ、お兄ちゃんの……だよ?」
「「しょーご、もうたべたったの? はやーい! くすくすっ」」
強盗事件が起きたのはたった今。ですが、あくまで被害者の証言でしかなく、目撃者は一人もいませんでした。こりゃ、ちょっと立証は難しいでしょうねぇ。諦めるしかないんじゃ? まぁ、僕はそこまで甘い物が好きってわけじゃないですし、無ければ無いでも構わないんですけど……は、ははっ……。
そこへ、スッと小皿が差し出されてきた。
テーブルの向かい側から伸ばされている太い腕とゴツゴツとした手の主は――。
「
「ジェルザさん……うぅ……ありが……」
――ひょい! ひょひょい!
「…………」
「…………」
「……えっと」
「…………」
「……あの」
「……今のは
この日、僕はお菓子を一つも食べることができなかった。
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