第二十五話: 迷宮の罠、突然の消失
扉を開けると、たった一ブロック――
それ自体は
「みゃあ」
「空き部屋だと思いますけれど、一応、見ておきま――」
と、玄室内を確認するため扉をくぐったヒヨスと月子の姿が、何ら前触れなく消失するまでは。
「月子?」
彼女たちが扉をくぐり、ほんの数歩を踏み出したところでの出来事だった。
荷車を
ただ、呆然と名を呼び……。
「月子っ!? な、何が起こった!?」
刹那の後、我に返って玄室へ飛び込み、辺りを見回すも、どこにも不審な点は見当たらない。真っ先に疑ったのは落とし穴だったのだが、床にも、天井にも、やや離れた四方の壁にさえも、見ようが触れようがおかしな痕跡などは残されていなかった。
――落ち着け! 消えた瞬間のことをよく思い出せ! 何か無かったか……?
だが、いくら思い返しても、兆候も無く、瞬き一つの間に消えたとしか考えられない。
まばたき? それにしては不自然な
「ばうっ!」
思考の渦に飲み込まれそうになっている僕を、ベア吉の吠え声が現実へと引き戻してくれた。
「ベア吉、どうした?」
「わっふ」
その黒い鼻先が指し示すのは何もない空間だ。
ちょうど月子とヒヨスが消えた場所ではあるものの、床から天井まで真っ先に調べてある。
が、
まるで晴れ渡った春の野に見られる
それに気付くと同時、見る見る揺れ幅を小さくしながら消えゆこうとする柱の中に二つの白い影を視認した僕は、半ば反射的に足を踏み出し手を伸ばした。
「ばうっふぅ!」
瞬間! 荷車を
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
眩しい光を感じて思わず目を閉じた僕が、
直前まで扉を背にした一ブロックの玄室にいたはずだが、目に見える景色は十字路の真ん中だ。
思わず平衡感覚を失い、よろめいた僕の手が
それは、すぐ
「……わふぅ」
「ああ、お前も一緒だったか。更に分断されなくて良かったよ」
「わふっ」
「つまるところ……瞬間移動という現象なのか? 月子とヒヨスも近くにいてくれれば良いが」
そんな甘い期待を打ち砕くように、ズルズルと石床を這いずる音が近付いてくる。
「この気色悪い音はハンマービルだな。さっさと凍らせてしまおう。先を急ぐぞ、ベア吉」
「ばう! ばうっふ!」
月子たちであれば、どんなモンスターに対してもそうそう
だとしても、先のように予想し得ない危険を
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
必死の捜索にも
と言うのも、すべて
そこかしこに仕掛けられ、事前に察知することは不可能なソレは、一方通行の
しかも、ご丁寧なことに、移動先には必ず
おそらく、月子たちも同様の経緯でどことも知らぬ場所へ飛ばされているのだろう。
心配なのは食料だ。
知っての通り、食料を積んだ荷車は、今も僕が
モンスターであっても平気で平らげてしまうヒヨスはともかくとして、月子はちゃんと食事を
「月子……せめて無事を告げる君の声だけでも聞きたいよ」
たった一日、離ればなれになっただけでひどく彼女の存在を恋しく想う。
月子が隣にいない……。それが、これほどまでに世界を
気ばかりが
風の精霊が知らせてくれた、巧妙に偽装されている床の落とし穴をこわごわ回避し、手持ちの地図にその位置を書き記しながら、僕とベア
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます