第二十二話: 鬼女の見送り、下層の一行
一方的に用件だけを告げ、謎の“声”はまた沈黙してしまう。
以後、こちらが何を言っても応じてくれないのは前回と同様である。
「とりあえず、声の主が何者かは置いておくとして……、『この地から解放してやる』と、そう言っていた」
「素直に考えるのなら、この山脈のことでしょうね」
「下山するためには何かが足りていなかったと言うのかな。行けばパスポートでもくれるとか?」
「くすっ、ハイヤーを手配してくださるのでは?」
冗談はともかく、またカーゴで
「これは、お誘いに乗るしかないだろうなぁ」
「罠の可能性も低くはありませんけれど」
確かに、僕らを異世界人と呼び、まるで意図が分からない一方的な招待を告げてくる相手など、なるべくなら関わり合いになりたくないところだ。
だが、ここで引き返して
「いや、残念だけど、ここで会わないという選択肢は選べない」
「選択の余地がないというのは困ってしまいますね」
「他に頼れる者がいれば良かったんだが。最大限に警戒はしつつ、会うだけ会ってみるとしよう」
僕たちの方針が決まったことを察したのか、二人の女性ケオニがこちらへ近付いてきた。
そして、手に持つ
「貸してくれるのか?」
「ギッ」
「そうか、ありがたく借りておこう。ここまでの案内に感謝するよ」
「ギギッ、ゲファウ」
僕の礼に対し、女性ケオニはフンっとばかりに顔をそむけ、『別にお前たちのためじゃない、勘違いするな』とでも言いたげな鋭い声を上げた。
なんとなくだが、感謝の意図が通じたような態度だと思える。
借り受けた
燃料を入れたり、石を交換できるようにはなっていないが、使い捨ての道具だとも思えない。だとすれば、燃料
なんにせよ、光量は十分なものがあり、あって困る物ではなさそうである。
「グレイシュバーグ、ギーギオグ」
最後に、警告ないし激励だろうと思われる言葉を赤毛ケオニが発すると、三人の案内役は扉の手前に固まったまま、こちらを見送るような雰囲気を
彼女らの役目はすべて終わったということだろう。
謎の声に従っていただけなのだとは思うが、短い間ながら彼女たちには世話になった。
最初に出逢ったのが戦士団ではなく彼女らだったら無駄な戦闘を
門番の戦士団を
それに、今後、再びケオニ族と敵対する可能性も決して低くはない。謎の声だってまだ味方と決まったわけじゃないのだから、
「それじゃ、行こうか」
「はい」
「みにゃあ!」
「ばうっふ!」
三人の女性ケオニを後に残し、僕らは巨大な扉をくぐり抜けた。
扉の先は、目に入る限りにおいて、特にこれまでと変わったところもない石造りの回廊だった。
高さと幅もそれぞれ
そんな回廊が正面と左右の三方向へ、ずっと遠くまで真っ直ぐ伸びている。
やはり、いくつかの扉が壁に備え付けられており、その点でも印象はまったく変わらない。
不思議石材によって空気が循環しているためか、
そう言えば、多数のケオニが暮らしていた上階でも、あまり
だが、やはりこのフロアにも生き物の気配はあった。
もちろん、ケオニたちが生活している気配などは何一つ
たたたっ!と何かが石の床を走る音、ダンッ!という乱暴に扉を開ける音、様々な鳴き声まで、耳を澄ませば長い回廊の先より絶えずそれらが押し寄せてくる。
どれも近くの音ではなさそうだが、間違いなく数は多い。
そのすべてが安全な小動物だなどと考えられるほど、僕たちは楽な旅をしてきてはいなかった。
「……いやいや、道案内が引き上げるには早すぎたんじゃないか?」
「結局、邪魔者を排除しながら、どことも知れない目的地へ向かうことは変わらないようですね」
思わずぼやく僕らの声に、当然、女性ケオニはもう答えてくれたりはしない。
先ほどまでのように、彼女たちが無口で無愛想だからではなく……。
背後にそびえる大扉が、僕らの通過後すぐ元通りに閉ざされてしまっていたからだ。
もはや前へ進むしかない。
こうして、この下層――地下大迷宮の探索が始まったのだった。
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