第十八話: なおも対話を試みる男、謎の声
まるで
「じっくりコミュニケーションを図っていくとしよう。苦手な分野なんだけどなぁ」
「よろしければ替わりましょうか?」
「ああ……いや、こいつらが劣情をもよおしても困る。君は後ろで顔を隠していてほしい」
「……はい」
考えてみれば、それほど複雑な意思疎通は必要ない。
僕らとしては、ひとまず争うことなく玄室の中へ入らせてもらえるだけでも構わないのだ。
内部を見てみて、あの岩壁の玄室と同じように、いくつかの部屋がある程度であれば、無理にケオニから間借りせずとも今いる空洞の砦で事足りる。別に長居するつもりもないわけだしな。
奥の方で通路や別の施設へ続いているのだとしたら、ただ通してくれればそれで良い。
目指すべき着地点は、お互いの不干渉……不戦条約の締結といったところか。
こいつらには門の中にまだいると思われるケオニたちとの間を取り持ってもらおう。
僕はスコップを持ち上げ、軽くケオニたちに突きつけた後、お互いからやや離れた地面に置き、何も持っていない両手を広げて見せた。
続いて、連中の
「分かるか? お前たちと敵対する気はないんだ。邪魔せずに門の中を見せてくれないか?」
身振り手振りを交えつつ、戦いたくないという意志をどうにか伝えられないかと試みる。
弓ケオニの
あれこれ表現を変え、粘り強く続けること
……うーん、要求どころか交渉の意志が伝わった様子すらも感じられないな。いや、こちらに殺意がないことだけは伝わったのか、
対照的に、ケオニどもから見えていない僕の背後では、月子やチビどもの
「
「そうは言うが、こいつらは痛みも死も恐れそうにないからなぁ。飴と鞭ってわけにもいかない」
「ふっ……この方たちと比べたら、ベア
「にゃあ」
「……わふぅ」
「それは言わないでおいてやろうよ」
とは言え、確かにこのままでは時間ばかりが掛かってしまいそうだ。
戦士ケオニより、よほど話が通じそうに思えた弓ケオニですらこのレベルでは
もっと頭の良い奴……なんなら、玄室の中に王様なり族長なりがいたりしないだろうか。
「よし! コミュニケーションについては一旦切り上げよう。先に玄室の方を調べる」
「はい、それがよろしいかと思います。この場はどうしましょうか?」
「このまま放っておいても構わないだろう。ああ、なんなら全員埋めておくかい?」
「それでは弓の方たちも
「氷かい?」
「いえ、石ですけれど」
なるほど、地面から首だけ出しておくよりは
……ん? ひょっとすると、月子、ダルマが気に入ったのか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二体の氷ダルマと三体の岩ダルマを玄室門の側に安置し、カーゴビートルを砦の上部へ戻した僕たち――僕と月子、ヒヨス、元気になったベア
以前に暮らしていた岩壁の玄室門とはまるで趣が異なる、山に空いた
最前面では、以前に僕らが
中は見通せないくらい奥の方まで真っ直ぐ続いており、玄室というよりは回廊の方がしっくり来るだろうか。予想した通り、内部はあの不思議な石材で組み上げられているが、左右の壁にはいくつかの木製扉も見える。
よく見れば、奥の方の扉はどれも
「ギッ……ギギッ……」
ケオニたちだ。その数、確認できるだけでも十人どころでは
やはり表に出てきた奴らだけで打ち止めなんてことはなかったか。
「あれだけの人数との戦いは
「この石材に囲まれた狭い空間じゃ精霊術はかなり使いにくいしな。なりふり構わず、
と、そのとき、僕たちの耳が異質な音を
――グッグッ……ガバア、ギィー! ギギャア!
ただのケオニの鳴き声……ではない!
突然、周り中から鳴り響いてきたかのような、
とりたてて音量が大きいわけではないのに、ガンガンズキズキとした感覚が頭の中をかき回す。
「な、なんなんだ、この声っ!」
「うぅ……」
「みゃ?」
「わぅ?」
ベア
おそらく音が発せられたのは一度だけなのだと思う。
しかし、その音は頭の中で反響するかのように延々と繰り返されていく。
――ギギッ……テ、レ……モー……ゲゲギャ……シャダ……。
少しずつ音を変えながら。
徐々に、徐々に、ラジオの周波数を合わせるかのように違和感を減らしながら。
やがて、その声はハッキリとした意味を持って……。
――……もう良い、入れてやれ。……そやつらは異世界人だ。
途切れた。
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