第三話: 二人、もふもふどもを養う
新たに養うこととなった二匹のチビは、とにかく、よく食う。
一体どこに吸い込まれてゆくのかと疑問に思うほど、毎日、自分の体積をも上回る量の食料を食っていった。
ストーカーが生きていた頃、めったに生き物の姿を見なかった理由が判明したな。
こんな奴らがいたら、そりゃあ付近の小動物は必死に隠れるさ……と納得する他はない。
だが、幸いなことに、チビどもが食べるのは動物の血や内臓、探せば割りとあちこちに生えている石そっくりの見た目をした小さなサボテン……など、これまで食料とは見なしていなかった余剰物資ばかりで
「みゃあ!」
「わっふ!」
今もこうして、
「おい、今やったばかりだろう。もう食べたのか」
「気のせいではなく、日に日に大きくなっていませんか?」
「ああ、ヒヨスの方はなんとなくだが、ベア
ああ、ちなみに二匹には名前も付けた。
クマは雄なのでベア吉、ヒョウは雌でヒヨスだ。
ヒヨスの名付けは月子が行った。僕はストーカーの子どもなのでスト
「早く大きくなると良いですね」
「うーん、育ったら襲い掛かってきそうで心配なんだがなぁ」
「毛皮がもう一セット欲しくはありませんか?」
「「「――!?」」」
空気が凍る。
ベア吉は僕の顔を見上げながら涙ぐみ、じょばーっとお漏らしをしてしまい、ヒヨスは必死に気配を消そうとしているのか、固まったまま初めての
僕はどう反応すれば良いものやら、思わず二匹と月子を交互に見た後、我に返る。
「……ま、まぁ、毛皮にするかどうかは、こいつらが敵対したときに改めて考えるとしよう」
「そうですか」
「お前たち、敵対……しないよな?」
ぶんぶんと必死に首を縦振りするチビども。
これは、成長しても殺し合いになることはないんじゃなかろうか。
さて、チビどもの相手をしながら、ようやく採集物の処理を終えた僕たちは、岩屋を後にし、生活拠点の玄室へと戻ることにする。
いつものように月子が洞窟通路の入り口を開いて先行、僕は
以前は狭く、足場も悪かった洞窟内だが、ここ数日の間、月子の精霊術による整地が
しかも、天井部に一定間隔で埋め込まれた石英ガラスが照明器具となっており。
「
複数の光源を作る光の精霊術【
つまり、天井に並ぶ綺麗な半球状のガラスは、中に光源を収めるための照明カバーなのだ。
これまで常用していた光と闇の精霊術【
ヒヨスは前へ行ったり後ろへ行ったり、ちょろちょろと跳ね回り、うっかりと蹴り飛ばしたり、
ベア
この洞窟内はほとんど整地されているとは言え、主要な通路を外れて奥や脇道へと
いや、モンスターの端くれであるこいつらに心配は不要だろうか?
「それにしても、こうしていちいち僕らの後をついて回ってくるのに、どうして玄室の中に入るのだけは
「私たちとは逆に外の環境が合っているようですけれど、それだけではなさそうですよね」
そう、チビどもは僕たちの生活拠点である玄室に足を踏み入れることをひどく嫌がる。
生後数日にして既に低酸素・低気圧・極低温の高山環境に適応し、平気で雪原に出られるため、僕らにとっての十分な酸素・標準気圧・適温という環境が過ごしにくいのかとも思ったのだが、どうやら別の理由があるらしい。
実際、この二匹は、環境としては玄室内とそう変わらない、門を出てすぐの空洞を主な生活の場としており、そこでは不便もなく過ごしているようだ。
「にゃっ」
「わふっ」
ほどなくして玄室前の半卵型空洞に到着。入り口の門はもう目の前だ。
そこで、チビどもは僕たちの
恒例行事の催促である。
僕は荷物を下ろして
隣では月子がヒヨスをそっと抱き上げている。
抱き上げたベア吉の頭から尻に掛けてぐりぐりと撫でていってやる。
うん、相変わらず
巨大グマの真っ黒い毛皮を防寒具として愛用している僕だが、すっかり慣れたその手触りを、ベア吉の毛皮は優に上回っていた。
巨大グマの毛皮の剥ぎ取りが上手くいかなかったせいか、個体差か年齢差か、理由はいろいろ考えられるが、生きていて体温が感じられるのが何より大きいな。
そろそろ抱え上げるのに苦労するサイズと重量に頑張って
月子の方は、抱き上げたヒヨスを肘と肩で支え、背中と喉を優しくさすっている。
くるるる、くるるる……と喉を鳴らす音がこちらにまで聞こえてくる。
こうしていると完全に猫だな。
二匹が満足したところで、僕らはそれぞれの相手と交替し、再び撫でていく。
毎度のことながら、絵画にでもありそうな光景だ。
僕はヒヨスの前脚を肩に掛けるようにして縦抱きにし、耳の後ろを指でぐりぐりしてやった。
お気に入りの攻撃を受け、ヒヨスが僕の肩で小さな手をにぎにぎとさせ始める。
普通に爪を立てるのでちょっと痛い……と言うか
実のところ、僕は割りと猫が好きなので、こんな風に構わせてくれるのは楽しい。
「よしっと……それじゃあ、また後でな、チビども」
「仲良くしているんですよ」
いつものこととなっている、この別れの儀式が済むと、二匹は僕たちから離れ、それぞれ広い空洞の両端へと別れていった。
こんな感じで最近は日々が過ぎていく。
そして、僕たちが待ちかねていた春がようやく訪れる。
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