第十話: 少女の急転
本日は、狩りと採集をほどほどに、地理の把握を目的とした周辺探索を行っていた。
現在の僕らは、拠点の
だが、本格的に下山することを視野に入れ始め、より広範囲の地勢を知っておこうと、今回はひたすら同じ方角へひたすら真っ直ぐ歩き続けてきたのである。
「つ、月子くん、このルートは良い感じに開けていて使えそうだ。目印を建てておこうか」
「わかりました。
後ろを振り返れば、同様の石塔が転々と何本も遠くまで建っているのが確認できる。
これらは、拠点近くより一定間隔で建ててきた目印だ。
美須磨による水と地の精霊術は、こと状態と形状を変えるという点においては、僕とは比較にならない効果を発揮し、こうして形作った岩石などをいつまでも残しておくことさえ可能だ。
あまり調子に乗って地形を変えすぎると周囲にどんな影響があるかも分からないので、自重はしているが、僕らはルートごとに特徴を変えた目印として、また、落石や
そこから少し歩いたところで、ポケットの中の【
「ストップ! 二時間経過だ」
「もうですか……? やはり三時間ではあまり遠くまでは行けませんね」
「ああ、
今までも折に触れ説明してきたが、ここで改めてまとめておくと、僕らの生命線となっている精霊術【
この時間こそが、僕ら二人の洞外活動における絶対的なタイムリミットである。
半日近くも持続し、切れてもほとんど間を置かず再使用ができる【
一旦、効果時間が切れた後、再使用が可能となるまでの時間は丸一日。
もしも洞外で切らしてしまうことがあれば、その時点で死を覚悟しなければならない。
一か八か、地の精霊術で簡易な
思えば、最初の日に地下の玄室が発見できなかったら、僕らは完全に詰んでたよな……。
実は三時間あれば下りきれる程度の低山だった……などというオチは、
ちなみに、富士山の山頂から五合目辺りまで登山コースを下るのでさえ、普通は
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【
ルートを確認し、目印の石塔を設置しながら進んだ往路と違い、帰路は足を止めず真っ直ぐに帰ってきたので余裕で間に合うと踏んでいたのだが、思いの外、際どい期間となってしまった。
少し前より息苦しさを感じており、今では軽くはないレベルの頭痛までしてきている。
「本当にギリギリだったな。いや、あぶないところだった」
「……はぁ、はぁ」
「このところ順調だったから、知らず意識が
「……はぁ、はぁ、はぁ」
「時間が正確に分かるわけではないのだから、やはり余裕を持って……――月子くん? おい、どうしたんだ!? 大丈夫かい?」
「……はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……すみません……あっ――」
「あぶない! こっちこそ、すぐに気付かなくてすまなかった。話さなくて良い」
情けないことに今の今まで気付いていなかったのだが、後ろを付いてくる
そこでようやく事態を察した僕は、
「乗り
「……はぁ、はぁ……いえ、
「はは、そう言ってもらえると光栄だね。急ぐよ」
苦しそうな表情の中に小さく微笑みを浮かべてくれる
だが、呼吸に苦労している様子と
自分の中での緊急度を数段階引き上げる。
そして、足早に通路を進み、岩壁を突き破る勢いで玄室へと駆け込んだのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
美須磨の
元々、彼女は高山病にやや弱いような節があった。
誰に聞いたんだったか、それとも本で知ったんだったかは覚えていないのだが、高山病の
そして、今回はその軽微な高山病に、どうやら疲労や栄養失調が重なってしまったようだ。
症状は重い風邪に似ており、頭痛と疲労と食欲不振で衰弱が激しい。ただし、熱は無い。
彼女自身が地球から持ってきた痛み止めの薬や栄養剤を服用してもらい、
僕は、拠点内の彼女の個室で、更に【
しかし、三日目の朝。
美須磨は目を覚まさなかった。
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