第十一話: 眠り姫に口付けを
どうすればいい……っ!?
心臓は……まだ動いている。だが、呼吸が非常に浅く、止まっているかのように感じられる。ひどく手が冷たい。今にも死んでしまいそうに思える。一体、
……今は何ができるのか、だ。
まず、息が止まりそうなのは、絶対にまずい!
【
理由は分からないが、とにかく彼女自身の呼吸する力が弱まっているのだ。
「
慎重に、慎重に、彼女がか
ずっと【
仕方ないな。今日だけだぞ……といった感覚が伝わってくる。かたじけない。
大きく深呼吸をするように美須磨の胸が上下し始めたことに、ひとまず
しかし、それだけで
「
この二日の看病で幾度も使ってきた水の精霊術【
意識があるときは、普通に服を脱いでもらってから掛けていたのだが、今は仕方ない。
そうして汗を洗い流したら、毛布を被せていく。
身体の冷たさから火の精霊に頼りたくなるも、彼女自身の体力に任せておくべきだと頭を振る。もう何度も繰り返した
呼吸の合間に水、特製の病人食、地球産の医薬品をそれぞれ与えていく。
栄養不足は解消されていると思うのだが、とにかく水と食事は十分に
そんな風にあれこれ看病をする間も、ほんの
頼りになる精霊も、実在することが分かっている神も、これ以上の力添えは期待できなそうだ。
ならば人事を尽くすしかないのだが……チッ、他に何かできることはないのか?
と、病床においてもそうそう
その眉間に浮かんだ小さな
同時に、呼吸を安定させた影響がようやく出てきたのだろうか、顔色もやや良くなったような気がする……いや、気のせいではないと思いたい。
「そうだ。頑張ってくれ、月子くん……」
僕は、祈るような気持ちでそう
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
正午になっても、美須磨の意識は戻らない。
朝の様子と比べれば、
このまま持ち直していってくれることを信じよう……と、自分自身へ言い聞かせていく。
再度、水と食事と薬を与え、
そこで、ふと部屋の入り口の脇に置いておいた、とある物の存在が気に
確たる理由があったわけではなく、何かの役に立てばと手当たり次第に持ち込んだ物の一つ。
ほとんど神頼みに近い心境で持ってきたのだが、改めて見てみれば、何かしら
「ははっ、我ながら思考がオカルトに染まったもんだ」
だが、か細い
僕は宝玉を持ち上げると、眠り続ける美須磨の頭の
そして、【
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
相変わらず、ここには時間を刻む物が存在しない。体感では、もう夜半になった頃だろうか。
風の精霊が、とうとう僕の言葉に反応しなくなってしまった。
それも、いつものように機嫌を
確かに、この三日間はずっと無理を聞いてもらっていたのだ。感謝こそすれ、不満に思うなど決してありはしない。
とは言え、状況としてはそれなりに……いや、かなり厳しくなった。
ひとまず【
しかし、【
今にも呼吸が止まりそうだった朝と比べれば、緊急の危険性を感じるほどではないが、未だに決して安静とは言えない息遣いをしており、対処する必要があることは明らかだ。
こうなると分かっていれば、もっと早くから風の精霊の運用を見直していたものを……。
――やるしかないよな。どれだけ効果があるかは分からなくとも、それでも。
僕は、ベッドに仰向けで横たわる美須磨の頭部を、後ろへ
そう、いわゆる、マウス・トゥ・マウス方式の人工呼吸法である。
口と口を合わせると言っても、そこに甘い雰囲気などはなく、恋人同士がするようなキスとはまったくの別物、れっきとした医療行為だ。
少しだけ泣き言を言わせてもらえるなら、体力的にも、精神的にも、とてつもなくしんどいし、これで呼吸の助けになっているのか? やり方は間違っていないか? そもそも、こんな状態で行うことに意味があるのか? 逆効果になってやしないか?などと余計な思考が湧き出てきそうになってくる。だが、そんなものが形を成して心を
息を送り込み、呼気を確認し、再び息を送り……と、ひたすら無心でやり続けているうち――。
いつの間にか、僕も意識を失っていた。
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