第七話: 少女の意地と男の意志
まるで予想していなかった
一体どうしたって言うんだ。まるで彼女らしくない。
「……月子……くん?」
「あ、すみません……ですけれど……」
「いや、分かった。君がそう言うなら撤退はなしの方向で対処しよう。それで良いんだね?」
「はい」
そんな風に僕らがやり取りしている間、敵はまったく動かなかった……などということはなく、ヘドロの塊を思わせる巨大な怪物は、その身から直径八十センチほどもある黒団子をポコポコと生み出していた。
卵でも生んでいるのかと思い、嫌な予感に背筋を冷やすが、実際はなお悪い。
既に十個も雪面に転がっている黒団子は、それぞれ本体と同様、ぷるぷると身を震わせており、中には細長いムチを伸ばし始めている物まであった。つまり、あれらは本体より分裂を果たしたミニ団子なのだ。
「君はでかいのを引きつけてくれるかい。その
先ほど、美須磨が
そこから伸びるワイヤーロープも切れずに美須磨の手首まで繋がっている。
彼女は二度三度ぐいぐいとワイヤーをたぐり寄せようとしてみたが、一ミリたりと戻ってくる様子はない。当然、巨大な本体を引き寄せることも叶わない。ただ、ワイヤーが切られる心配はやはり無さそうだ。
「……っ!!」
「まずは無理せず、通用しそうな攻撃を探っていこう。期待できそうなのは……」
「私にも試してみたいことがあります」
「ああ、だが忘れないでくれ。無理をしてまで倒す必要はないんだ」
「はい、参りましょう」
簡単な打ち合わせを終え、僕らは行動を開始する。
怪物――そろそろ呼び名を決めておくか……よし、あいつは
ゆっくり子バルバスの群れへ向かって歩き出し、願う。
「
眼前に五つの火の玉が生み出され、それらが同時に前方へと撃ち出されていった。
そして、黒団子が密集している地点に次々と着弾すると、大きく燃え広がって周囲をも焼く。
お
どうやら子も親と同様、あまり動きは速くないらしい。
その場にいた半数以上が炸裂した火に巻き込まれ、どろどろに形を崩してのちうち回った。
思った通り、火はよく効きそうだ。
だが、現在の位置は既に奴らの攻撃範囲でもあった。
爆撃を逃れた敵の残り半数、そして火に焼かれたままの数匹が、押し寄せてくる高波のように盛り上がりつつ、細長いムチ――触手を真っ直ぐ伸ばしてくる。ムチと言うよりは
「
雪面を足で蹴った瞬間、僕の
着地する際に空気のマットで受け止めてもらうまでが効果に組み込まれた精霊術【
そのまま空中から、先ほどは巻き込まれなかった地点に向けて【
二度の連続爆撃で群れ全体をまんべんなく炎上させ、僕が雪面に降りると、もはやダメージを負っていない子バルバスは一匹もいなかった。
しかし、いずれも仕留めきるところまでは行かなかったようだ。
低酸素、低気圧、吹雪の中ということで、燃え上がった火がすぐに鎮火してしまうのである。
こんな小さな奴らでさえ、ただ燃やすだけではダメか……。もっと考える必要があるな。
おっと、
戦闘再開後、美須磨はピンと張られたワイヤーを伝うように真っ直ぐバルバスの
彼女の行く手を
ニンジャじみた身のこなしと忍び足に加え、ストーカーの毛皮をまとってしまえば、素通りも同然に群れの
――ティエリ、りー!
分裂したためだろう
ワイヤーリールが固定された右手をやや前方へ向けているが、左手には何も持っていない。
降りしきる雪を掻き分けるかのようにその左手が振られ、
「
すると先んじてバルバスが突き出してきていた三本の触手が、ピキリ!という透き通った音を上げて停止したかと思えば、白い
凍りついていく触手を自切しようとでもいうのか、付け根部分を千切れそうなほど
――リ、り! っリ、リ!!
まさか、脳髄は
凍結した触手と体組織がボロボロと崩れ落ちてゆくも、小山のような巨体からすればごく一部。
そして、目前の敵対者を飲み込まんと、まさしく暴走車のような勢いでのし掛かろうとする。
いや、それはもはや津波か土砂崩れ、天災にも迫るほどの規模だ。
「――
その圧倒的なまでの面制圧攻撃を
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