第六話: 謎の怪物と戦う二人
前方に横たわる氷雪地の裂け目――深いクレバスの奥底より、ぬらぬらとした不気味な光沢をまとう細長い何かが飛び出してくる。
それを察知すると同時、僕と美須磨は左右後方へと飛び
「
「
だが、いきなり宙に咲いた鋭利な花弁を持つ氷の花も、燃え盛りながら射出された火の玉も、謎の襲撃者を捕らえられない。
「――ヘビか!?」
「いえ、頭部は見当たりませんでした。それに動きも――」
「おかしかったな。ムチのような何か……」
――ティエリ、リ!
どこか
僕はすかさず身を伏せてから斜め前方へ逃れるが、美須磨は半身を斜めに傾けて
彼女の姿は、身にまとった毛皮の効果で徐々に回りの雪景色へ溶け込みつつあり、知っている僕の目であってもハッキリとは
「
風雪の中でさえ響く、透き通った声に合わせ、クレバスの中から【
その先端には黒く大きな何かがまとわりついており、未だこちらへと伸ばされたままの二本のムチと根元で繋がっている。
ずるり……と、岩の杭の表面を滑り落ちてくる何か。
それは血を粘液質に固めたかのような赤っぽい――いや、虹色にぬらつく黒い粘液? 周囲の暗さもあってハッキリとはしないが、そのようなものに見えた。タコか!?
落ちてくるタコを目がけて
その
やや遅れて、先ほどから伸ばされたままだった二本のムチもゆっくり戻されていく。
そして、岩の杭によって上空へと突き上げられ、ずり落ちてきていた巨大ダコめいた何か――ざっと三メートル近くはあるソレもまた、ずるずるとクレバスの奥へと
――ぇっリ、リ! ティエリ、リ!
幅が四十センチほど、横幅にして七メートル以上……そんなクレバスの全体から、じわじわと黒い何かが
貝? ナメクジ? いいや、それは、さながら“生きた粘液”。
「……おいおい、こんな大きさをした生き物の姿か? 微生物じゃないんだぞ」
グングンと体積を増し、観光用のマイクロバスに匹敵するサイズとなって雪原に降り立つ
呆然とする僕を
クレバスの中から全体を現した怪物が、弾むように大きく震えた瞬間に合わせ、ワイヤー付き
だが、必殺の威力を誇るはずの一撃は、怪物を切り裂くことも、突き刺すことも、
「あ……」
彼女であっても予想外の結果だったのか、刹那、動きを止めてしまう。
「あぶない、月子くん!」
やや後方にいたお
――ドガァ! ザッシャアアアアア!
空中で上体を
ゴフッ……よし! 大丈夫だ。
こちらの出方を
なんにせよ、その攻撃の鋭さに反し、本体の動き自体はかなり鈍そうだ。
「つ、月子くん! 一旦距離を取って仕切り直そう」
「待ってください! もし、
「落ち着くんだ、君らしくもない」
「でも!」
見たところ、奴の
ならば距離を取って精霊術で攻めるのが得策かと思われるのだが……。
と言うか、そもそも相手をする必要があるのだろうか?
「むしろ逃がしてやれば……いや、あんな怪物、放っておいても構わないんじゃないか?」
「――なっ!? 何を仰っているのですか!」
それは、僕が初めて耳にする、美須磨の
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