第四話: 谷の底、拾い集める二人
狩猟と採集をしながら雪原を巡っていた僕らが、このクレバスに気付いたのが二十分ほど前。
目立つ場所に存在しており、裂け目の幅も広いため、危険性は低いだろうと判断して別方向へ向かおうとしたのだが、そこで奇妙な物が目に付いた。
今まで見たこともないソレが妙に気になってしまい、
「あー、どの辺りだったか。思ったよりも起伏があって分かりにくいな」
「奥の壁に近かったはずですので……あちらの方ですね」
「行ってみよう。あ、
「お願いします」
広くなだらかな雪原とは異なり、複雑な形をした岩壁の間を風が吹き抜けていくせいだろう、この谷底は、場所によって雪の積もり方がまちまちで、かなり
先導する美須磨が雪面をある程度
ひーひー言いながら歩を進めていると、唐突にポケットの中で
「つ、月子くん。一時間経過だ」
出発時にセットしておいた地の精霊術【
まぁ、単に一時間程度しか維持できない石玉を作成するという
「それでは、ここの確認が済んだら本日はお仕舞いですね」
「直線距離なら大して拠点と離れていないから、とりあえず焦る必要はないよ」
「はい。ちょうど着きました。おそらくこの辺りだったかと思います」
雪舟を停め、それぞれ周辺の探索を開始する。
この一画はやや気温が高いのか、雪があまり深く積もってはおらず、ところどころ地面が見え、ごつごつした岩が多く転がってたり突き出ていたりしていた。
岩の表面はやや湿っており、珍しく普通のものと思われる緑色の
また、ただの石ころにしか見えないが、持ち上げようとしてみると地面に根を張っている植物――サボテンの一種か?――や、いくつかの変わった色をした岩石を発見することができた。
何かの役に立つかも知れないので、一通り、採集しておこう。
「
そこに
同時に、聞こえてくるガコッ!という鈍い打撃音。
どちらも発生源は大きな岩陰の向こう、この場から様子を
声が聞こえた瞬間、僕は大岩を迂回するようなコースで反対側へと回り込んでいった。
そちらは
視界が開けると、複数の何かと戦う美須磨の姿が目に入った。
敵の大きさは二十センチほど、それほど大きくはない。だが、数が多い。
彼女の
胴部に三対六本……いや、加えて腹部の先端にも一対あり、合わせて四対八本の短い脚を持つイモムシ? ちょっと見覚えがあるな。何かで紹介されていたのを見たんだったかな? 確か、地球のクマムシとかいう小さな虫がこんな姿をしていた気がする。
だが、サイズ以外の大きな違いとして、ダンゴムシに近い多数の
見た目通り、ダンゴムシよろしく球状に丸まることもできるらしく、棘付きのボウリング球といった形態となり、美須磨に対し、何匹もが盛んに体当たり攻撃を繰り返しているようだ。
美須磨は一対の
「
普段、狩りで使うときには肉や毛皮を傷めないよう
狙い通り、ボウリングムシの一匹に火の玉が命中し、ごうっと燃え上がる。
が、一瞬で火は消えてしまい、後に残った虫は何ら
なっ!? まったくの無傷だって?
「ならば、
まとめて吹き飛ばしてやるつもりで爆風じみた突風を起こす……が、やはり奴らの
「駄目です、
ガコッ!と短刀でボウリングムシの体当たりを受け流しながら
「そりゃ厄介な虫だなっ!」
ようやく戦場に辿り着き、駆け込む勢いのままスコップを振るう。
水平斬りの型で振るわれた一撃は、丸まりながら空中へ飛び上がったボウリングムシの甲殻の継ぎ目をたまたま
「お、殻の中身はかなり柔らかそうだぞ、つ、月子くん」
「そうなのですか?」
厄介と思えた敵だが、どうやら僕の持つスコップはこいつらと非常に相性が良さそうである。
ある程度の重量を持った
守りにおいても、体当たり攻撃をスプーン部分で受け止めれば、その勢いを利用して遠くへと放り投げてしまうことができた。
そうして、僕は徐々に群れ全体の攻撃目標を自分自身へと引きつけていく。
敵の数が減って包囲が解けてしまえば、後は美須磨の独壇場だった。
ストーカーの迷彩毛皮によって虫たちに認識されなくなった彼女は、群れから孤立している奴、僕の攻撃で動きを鈍らせた奴、遠くへ投げ飛ばされて
ほどなくして、ボウリングムシの群れは半壊し、生き残った奴らは
「最初は一匹だけ、
「あまり長居はしない方が良さそうだな。雪舟を覆い隠して手早く目当ての物を探そう」
「そうですね。
周囲に散らばったボウリングムシの死体を回収し終えた僕たちは、ここへ来た目的――探索を再開するため、ひとまず雪舟を隠しておくことにする。
しかし、そこでふと
「あいつら、精霊術で出来た岩を消したりはしないだろうな」
「匂いを漏らさないだけの一時
「……急ごうか」
「そうしましょう」
再び、探索すること
やや盛り上がった地面を一メートル前後の岩が
それは、一見すると綺麗に削り出された宝石のように思えた。
うっすらと緑色に輝き、
こんな極寒の地で放置されているにも
「上からは緑色の何かとしか分からなかったけど、宝石……いや、宝玉というイメージかな」
「調べるのは後にして持ち帰ってしまいましょう」
「そうだな……よっ……せっ……と、意外と重いな、これ」
持ち上げてみると形はピンポン球を思わせる綺麗な球体、一抱えほどの大きさだが、見た目の割りには結構重く、六十キロ以上はありそうだ。
また、抱えてみて分かったが、ほんのりと暖かい。
今回はいろいろと変わった物が手に入ったが、いずれ何かの役に立てば良いな。
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