第三話: 落ちる男と飛ぶ少女
精霊術の効果に関して、僕らは早い段階で
まぁ、当然である。
【
そこに疑いを抱いてしまえば、もはや何をすることもできなくなってしまう。
だから、精霊術が不安定な能力であることを百も承知で、割りきって、信じて、頼るのである。
……だが、正直に言わせてもらえれば、これから挑戦しようとしていることは、いくら精霊を信頼していようが
「大丈夫です。足から、足からですよ、
「あ、ああ……分かってはいるのだが」
既に、つま先が
「大丈夫です。雪上ですから万が一があっても
「あ、ああ……ちょうど勇気の在庫を切らしていなければ余裕だったんだが」
そう、お察しの通り、
単に下まで降りたいというだけなら他にもやりようはあるのだが、今回は精霊術の検証をする一環でこのような状況へと追い込まれてしまっている。
「くっ、いつまでも
「はい、その意気です」
「行ってくる!
思いっきり地を蹴って宙へ身を投げ出しつつ、風の精霊へ頼む。
本来であれば重力に従い、すぐに落下速度を上げていくはずの僕の
そして、あたかも透明なパラシュートでも着けていたかのように崖下へと着地させられた。
ふぅ、超常現象には慣れたつもりだけど、やっぱり肝が冷えるなぁ。
落下速度に限らず、対象の運動エネルギーを大幅に削ってくれる風の精霊術【
既に、もっと低い場所からの落下テストは十分に済ませていたのだが、失敗した場合、
「
「大丈夫だーっ! なんともない! 君はゆっくり下り――」
「それでは
「は?」
崖上から響く
その意味をかろうじて頭が理解した瞬間、上空に大きな影が飛び出してきた。
「ちょっ!?
美須磨の手で製作され、早くも採集物の運搬には欠かせないものとなっている僕らの雪舟は、大物を積み込むことまで想定した縦幅二メートル強の大型サイズ。
フレームには金属が用いられているものの、主な素材は
それは、たとえ【
雪を巻き散らし、ごおぉっ!と吹き上がった突風と見えざる空気のマットにより、落ちてくる雪舟の速度が目に見えて落ちる……が、
――こうなったら積もった雪で受け止めるしかない!
「
が、僕の
言うまでもなく、もちろん、僕のしたことではない。
タカアシガニを思わせるフォルムとなった雪舟は、太く長いそれらの脚を下部へと突き出し、グッシャア!!という派手な粉砕音を鳴り響かせながら雪上への着地を果たす。
六本脚の先端が雪面に突き刺さるのに合わせ、多関節が順番に素早く内側へと曲げられてゆき、半ば近く砕け散りながらも雪舟本体へ加わる衝撃を全力で逃がしきってみせようとする。
舞い上がった雪と氷、砕けたカニ脚の破片、轟音と振動……それらがしばらくして落ち着くと、六本脚に支えられた
と、雪舟の上に乗っていた
「すみません、思っていたよりも大変なことになってしまいました」
「うん、どうなることかと思ったよ。君の思いきりの良さにはいつも驚かされる」
「私もびっくりしました」
「うん、あぶなかったからね。ヘタをしたら
「ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありません」
謝ってくる彼女は、ちょっと珍しい表情をしていてとても可愛いらしいのだが、
「今度からは事前に確認してくれ。いいね?」
「はい」
幸い、地の精霊術により形成された使い捨ての岩石製カニ脚を切り離してみれば、雪舟本体は完全に無傷だった。
結果だけ見ると、彼女の行動が無謀であったとも間違っていたとも言い難い。
……むぅ、僕が小心者というだけのことなんだろうか。
とまれ、前置きが長くなってしまったが、実は、こうして僕らがわざわざ崖を下りてきたのは、風の精霊術の検証が主目的というわけではなかった。
先ほど、この崖下で気になる物を見つけたため、
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