第二話: 異世界で男メシ
今更の話になるが、【
いや、僕自身のことなのだが……。
一応、それには理由があった。
と言うのも、決まった効果をもつ精霊術に関して話すとき、日本語として言い表していると、話す側も聞く側も戸惑ってしまうのだ。それが緊迫した探索中であったら
いちいち効果を説明していたら長いし、使い慣れない日本語を会話に出すと聞き違いも起こる。
外国語で言えば、特殊な意味を持つ言葉であることが明白なため、すっと頭に入ってくる。
使用頻度が高い精霊術に英語で名を付けることは、結果的に見て割りと重要だったように思う。
また、これには副次的な利点もあり、特定の仕事に名付けを行ったことで精霊の理解度が増し、安定して効果が現れるようになったというのも大きい。特に、自分と相性の悪い精霊に頼む場合、その恩恵はバカにならないものがある。
今、僕はそのことを強く実感していた。
「
よし! このとき中の肉汁や
この辺りの微妙な調整が、以前の僕にはまったく上手くできなかった。明らかに命名の恩恵だ。
表面の氷があらかた無くなったら、あらかじめ用意しておいた冷水に
この間に他の材料を用意してしまう。
まずは、深く積もった雪の下を探すことで
生で食べてもシャキシャキとして
次に、洞窟の縦穴に自生していた、
こいつは特に味はせず、栄養もなさそう、毒キノコではないので一応は腹の足しになるというくらいしか取り得がない、びくつきながらも、念のため、可食テストをしておこうなどと考えた過去の自分を殴りつけたくなるような代物であった。
だが、カラカラになるまで乾かした後、少量の水分を加えることにより、
「
一気に乾燥させてカラカラにし……。
「
……ヤスリ状にした石で
このパサパサの粉が、後で材料と混ざることで絶妙な口当たりを生み出してくれるのだ。
氷果は、採集する度、同じ
以来、ドリアン味は一度も当たっておらず、非常に残念な気持ちなのだが、それはさておき。
そんな氷果の中でもドリアンに次ぐ
中身の味は、なんと! ミルクセーキ。
牛乳と卵と砂糖を混ぜて作る、バッサリ言ってしまえば、“飲むプリン”みたいなアレだ。
もはや果物ですらないが、そんなことはどうでも良かろう。
甘さ控えめでシャーベット状やプリン状のままで食べても
しかし、大事に大事に少しずつ味わっているコレを、今回は料理の材料として
準備は完了だ。
「
手を軽く冷やした後、先ほどから冷水にさらしておいた肉を取りだし、石の包丁にてひたすら切る切る切る切る切る切る切る切る切る……叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く……――。
更に、切る切る切る切る切る切る切る切る……叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く……――。
――ハァハァ、ハァハァ……これで、自家製
ここに、同様の手順で作っておいたウサギ挽き肉を少しだけ――八:二ほどの割合で混ぜたら、塩を加えて粘りけが出てくるまで更によく混ぜる。
混ざったところで先ほど用意しておいた他の材料――野草の根のみじん切り、干しキノコの粉、ミルクセーキ氷果の果汁と果肉、それらすべてを投入し、ざっくり混ぜていく。
適当な大きさだけ取り、両手の間でキャッチボールをする要領で数回パンパンと掌に叩きつけ、材料がなくなるまで小分けにしたら、いよいよ焼きに入る。
じゅわ~っという肉の焼ける音が上がり、食欲をそそる匂いも立ち上がってくる。
焼き目と音に注意し、中まで火が通ったら……。
よし! 特製クマ肉ハンバーグの完成である。
端の方を少しだけ切って味見してみると……。
「うん! 思った通りだ! 上手くいった! ミルクセーキとシャキシャキ草、信じてたぞ! おぉーい! みす……つ、月子くん! 出来たから来てくれないかー! 食事にしよう」
「はい、
同じ作業室で離れて道具作りをしている美須磨へ声を掛け、二人前のハンバーグを皿に載せて玄室中央の
皿をテーブルに並べ、精霊術でお茶を
「それじゃあ」と、顔を見合わせ。
「「いただきます」」
銀のフォークで皿に載ったハンバーグを押さえ、銀のナイフを入れる。
切れ目から流れ出てきて
断面を見てみれば、中心までちゃんと火が通っており、かなり綺麗な桜色に仕上がっていた。
フォークを突き刺した、やや大きめサイズの一切れをゆっくりと持ち上げ、パクりと一口。
……うん、やはり上出来だ。
ミルクセーキ
今まで鼻を
凍った肉を解かすときに旨みや
ここに辿り着くまで、数多くの試作と失敗を重ねてきたが、ようやく苦労が報われた。
次は、ケチらずに美須磨の
正面に目をやると、
だが、彼女にしてはそのペースはやや速め。
どうやら気に入ってもらえたようだ。
僕らの食料事情は、こうした
ストーカーのヒョウ肉は、独特のアンモニア臭があり、やはりさほど
しかし、美須磨は僕が何も言わなければ、未だ大量に残っているクマ肉を食べることが多い。
食にこだわりがないというのもあるだろうが、一番の理由は、僕がほとんど手をつけていない食材を引き受ける気持ちからなのではないかと思われる。
そのことに気付いて以来。
僕は、必ずやクマ肉を
元々、僕自身も食にこだわる方ではなく、知っている料理のレシピなど両手の指にも満たない程度、調味料や道具さえまるで足りていない現状では試行錯誤の連続だった、が。
「我ながら、なかなか上手くできたと思う」
「はい、とても……
ああ、その言葉が聞きたかったんだ。
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