第十五話: 励む男と励ます少女
精霊術開発を一段落させた僕は、気分転換も兼ね、ここしばらく日課としている鍛錬を始める。
軽い
そして持ち手と柄をそれぞれしっかり握り、まずは中段に構えてから素振りを始めた。
上段に振り上げてからの真っ直ぐな振り下ろし、そこから続けて斜めに振り上げ、
剣道や
とは言え、心強い相棒であるこの頑丈なスコップの取り回しを
改めて紹介しておくと、このスコップは、
八十センチほどの長さがあるが、軽量かつ折りたたみ式なので持ち運びに便利な上、
その割りに極めて頑丈な作りとなっており、硬い岩盤に突き立てようが、派手に振り回そうが、分解や刃こぼれを起こすことはなく、軽いので威力に関しては控えめながら十分以上に頼もしい護身用武器と言って良い。
さて、ある程度、身体が
スコップを振り抜いた直後、日本であれば携帯しているだけで完全に銃刀法違反となる刃渡り十センチ近いヤンキー産のサバイバルナイフを胸元の鞘から抜き、そのまま前方へと突き出す。
これはスコップを
始めたばかりの頃は、ナイフに持ち替えようと思ってスコップをすっぽ抜けさせてしまったり、ナイフの刃で自分を傷つけそうになったりしたものだが、もう扱いにも
「――ふっ! と、これで、千セット完了。ハァ、ハァ……」
頭が空っぽになるまで身体を動かし、どうにか悲観で塗りつぶされていた気分が上向いてくる。
玄室へ戻ろうかと思ったが、もう少し、精霊術の訓練をしていっても良さそうだな。
苦手な水と地の精霊に関して、僕にできる範囲を探っていってみようか。
「しっかし、どうしたもんかねぇ。このままじゃ採集にも出られない。僕なんか食べても
「――罠ではいけないのですか?」
「小動物も掛からないような罠じゃなあ。第一、獲物は
「相手の方から襲ってくるのでしたら、精霊術の罠へと誘い込めるのでは?」
「なるほど、それなら……いや、危険すぎる。前回は襲ってくる寸前にたまたま気付けたけど、相手はろくに気配も感じさせないんだ。いくら大規模で強力な罠であろうと、上手く誘い込めるとも、設置するまで待っていてくれるとも思えない」
「そうではなく、あらかじめ精霊にお願いしておいて、近付いてきた敵を捕らえる、そのような精霊術の罠はできないものでしょうか?」
「あらかじめ? そうか! ……って、
驚いた……。いつの間にか
こんな並外れた容姿と存在感をしているのに、なんとも気配を消すのが上手い少女である。
いや、ちょっと待て。僕は変なことを口走ったりしていなかっただろうな。
「それで、やっぱり危険な目に
「う……」
「このような状況ですから
「すまない……その、君に、心配を……かけたくないと……」
「逆に心配です」
「……だ、だが、僕は大人で教師なんだし……やはり……」
「今の状況ではもう関係ありませんよね?」
「はい……」
全く
改めて我が身を振り返ってみれば、心配をかけたくないなどと思いながら、この
今更だが、己の
「あの、そんなに落ち込まないでください。これでも私は先生のことを頼りにしていますからね」
「……うん、ありがとう。気遣ってくれて」
「ですから、あの……お分かりになっていませんね? 先生が私のような子どもを心配なさって頑張ってくださっていること、ちゃんと理解していますから」
「うん?」
「パートナーとして、もっと私のことも頼ってください、ということです」
は? この子は一体何を言ってるのやら。
まるで僕がこれまで
「……ずっと頼りっぱなしだったと思うが?」
「そんなことはありません」
「……いや、実際に僕の方が助けてもらってばかりだろう?」
「何を馬鹿なことを仰っているのですか」
「僕は……君を助けることができていたのか?」
「先生がいてくださらなかったら、あの街で、この雪山で、私はどうなっていたかも知れません。なんなのですか、もう」
あまり感情を表に出さない彼女が、心底呆れたような顔をして言う。
そうだったのか、これでも僕は役に立っていたんだな。
……そうか――。
なら、それならば、これからも頑張らないと。
おいおい、なんだ、やりたいことが山積みじゃないか。何をぐずぐずしているんだ、僕。
この忙しいのに、いつまでもストーカーなんぞにかかずらっている暇はないぞ。
だったら、あんなもの、さっさと片付けてしまうしかないじゃないか! なぁ!
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