4話 豪華客船の中で
豪華客船に似つかわしくない男は、自分の相棒たる大剣の整備をしていた。場所は最下層にある、よく言えば荷物置き場。悪く言えば倉庫だ。
男の持つ剣は、剣というには、切れ味もなく、ただ鉛の塊といった様相だった。
それでも男は上機嫌な様子で、その大剣を磨いていた。
「ソルド」
男の背後から、壮年の男性が声をかけるが、ソルドと呼ばれた男は気づく気配はなかった。
「魔術師殺しの剣士!」声を荒らげたところで、ソルドと呼ばれた男はひょいと振り返った。
赤銅色の髪と眼が悪気なく笑う。髪は短髪に切りそろえられてはいるが、ところどころ跳ねておりひょうきんな印象も否めない。
「そうか、俺は今ソルドか」
任務ごとに名前を変えているのでその呼び名が自分を指すことに気づくのが遅れることもしばしばだ。
「それで、なんだい」
ソルドーー仮名だが、壮年の男に悪びれず言った。立ち上がったソルドの体躯は、180cmはゆうにある。たいていの人間はそれで怯んでしまう。
が、壮年の男性は怯まなかった。
「お前は本当に魔術師を殺せるのか」
「俺の二つ名を疑うのかい」
「そうではないが……」
男は重苦しく口を開いた。
魔術師を殺すのは、至難の業だ。相手は不思議の力を使ってくるし、魔術はそもそもリーチが長い。剣士が間合いに入る前にずたずたにされるのが関の山、というのが通年だった。
それに。壮年の男は付け加た。
「この船には、大陸最強の魔術師、シルヴ・ウィリアム・ムスペルヘイムが乗っている。。
「そいつを殺せば任務完了かい」
あくまでも楽天的なソルドの答えに、壮年の男性はため息で返すことしかできなかった
「シルヴの持つ秘宝を奪うことが、本来の目的だ」
「礼金は弾むのかい」
「…生きていたらな」
ソルドは正式な客ではない。船の最下層にある物置小屋で、ソルドは片手を上げて答えた。
「俺を前にして生きてる魔術師はいないよ」
それが本当なのか軽口なのか判別がつかないまま、壮年の男は最下層から去るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます