第2話 そしておいしい食事処
ベリア・インの女将は、はたから見てもわかるほどウキウキと楽し気に宿中の掃除をしていた。朝からあちこちのほこりを落とし、拭き掃除をした。普段は使いもしない花瓶に、今日のために育てた花を活けている。
「今日はやけに機嫌がいいねぇ、上客でもいるのかい」
明日の食事の材料を下した漁師2人が、そのまま食堂に居座っていた。外が騒がしいので、晩御飯がてらここで一杯はやめに飲みたいのだ。
「あんたら今日の仕事はいいのかい?」
「今日は仕事にならん」
「海がふさがってるからね」
ふたりに卸された魚介類を中心に、女将が料理を作り始める。一番飯にありつく心づもりの漁師二人は悪びれず答えた。
外ではパンパンという空砲が絶えず響く。年上の、ひげを蓄えた漁師が眉をしかめた。
「あんな音がして、魚が港に寄り付かなくなったらどうする」
「陸の上のことなんて、魚が気にすることないでしょう」
若い漁師はあっけらかんと答えた。しかし年上の漁師は怯まなかった。
「じゃあ、あんな大きな船をこんな港につけようとするなんて、魚が寄り付かなくなったらどうする」
「あー、それは、ありえるかも。でも戻ってくるって」
勢いに気おされた若い漁師が作り笑顔で取り繕うと、窓の外に目をやって、また年上の漁師がため息をついた。
「あんたらねぇ、港町が船を嫌ってどうするのさ。はい、おあがり」
今度は女将が料理を持って割って入った。漁師二人に出されたのは魚介と米と野菜を香草と一緒に炒めた、この町の郷土料理だった。
木製のスプーンを手に、料理にがっつきながら、若い漁師も大げさなため息をつく」
「ここは食事処として繁盛するだろうけど、俺たちにとってはおまんまの食い上げだよな。豪華客船から降りて観光船を取る人なんかいなさそうだし。 なんだっけ、あの船は――豪華客船フレイア、か」
外でまた火薬の音が響く――このエミリア・シティは、ここ最近にない賑わいを見せていた。つまり、もうすぐ着岸する豪華客船フレイアによって。
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