ゆめの なかで

 泣き声にも似た歌声が、降り注ぐように響いている。

 波間には破滅の光が輝いている。

 爆発音が何度も響く。

 幼子を抱きしめていた女は、ふとその手を離した。

 奪い取るように、影が動いた。

 影をきっとにらみつけ、指さそうとした女は、次の瞬間には影のことも幼子のことも忘れて、また歌い始めた。

 すべてが泡沫のように胡乱である。少女であり母であり老婆である女は、神でも悪魔でもあるのだろう。

 影は女に何か言い残そうとしたが、思いとどまった。

 忘れることが幸いであることも、あるのだろう。すべてを破壊する女の幸せを願いながら、影は姿を消して、もうそこには何も残っていなかった。

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