アウトローズ・クエスト0 海の魔物と妖精の王
おがわはるか
第1話 ここはのどかな港町
エミリア・シティは普段は長閑な港町だ。
日によって、漁船になったり観光船になったりする中途半端な大きさの船が、凪いだ海に浮かんでいる。適当なロープで適当に港につながれている。
海鳥と猫がミャアミャアと鳴いていて、ベンチに座った老人がタバコをふかしながら網の手入れをしている。
そんな、どこにでもありそうな普通の港町だ。
エミリア・シティの人口は1000人程度だ。おおかた半分は港町で商売をしていて、おおかた半分は船の上で漁をしている。毎年そこそこの数の観光客と旅人が来る。
アルカンディア唯一大陸は、中心に大きな山脈があるので、船が盛んだからである。
安い宿もそこそこにある。そんな、1泊1部屋20ルクの部屋で、王宮魔術師スカイ・ウィルナーダは不覚にも、船酔いの疲れを癒していた。髪色は空と同じ銀色で、閉じられた瞳は青い。体躯は立派な青年だが、やや華奢だ。
スカイはこのエミリア・シティに、従者になるべき人を迎えにきた。
本当なら今晩にでも落ち合うつもりであったのだが、スカイの乗った船は時化に巻き込まれ波にもまれ、町に着いた頃には這う這うの体で、スカイの顔色は真っ白だった。
とても外出できる状態ではなく、予約していたベリア・インという安宿にたどり着いた。
女将は優しく船酔いに効くお茶と着替えを用意してくれ、そしてそのまま10時間近く薄暗くした部屋でスカイを休ませてくれた。
だからこのパンパンという火薬の音も、この港町に似合わないやけに大きな歓声も、女将のせいでは決してない。
それはわかりながらも……スカイは恨めし気な顔で、ベッドからむくりと体を起こした。
水差しに用意されていた水を飲む。キャアキャアワアワアという歓声は、空耳ではなさそうだった。
「船が来たか……」
カーテン越しにかすかに差す西日に目をやって、スカイは呟いた。
船が来たなら、動かなければいけない。港町とはそういうものだ。と女将が言っていた。スカイは港町の流儀なんか知ったこっちゃないが、待ち人が乗った船は迎えなくてはいけないことはわきまえていた。
皮ひもで長い銀髪を後ろにまとめて、かけてあった白い外套に手を伸ばした。白い外套は旅のせいでそこそこに薄汚れている。
王宮魔術師は通常、黒い外套を着用するのだが、ある一定の地位や任務を受けると色が与えられる。一般的には「色付き」と呼ばれる。矢鱈と目立つ白い外套は、スカイの銀髪に合わせて与えられたものだが、スカイはそれを嫌っていた。
「目立つのは好きじゃないんだけどな」
色付きの王宮魔術師が、豪華客船を迎える。それはこの港町で今一番ホットな話題だ。ため息をつきながらも、スカイは身支度を整えて部屋から出るのだった。
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