第5話 すももの餡蜜②

「へぇ〜なら俺もそれにしようかな。よく食べてたの?」


「うん。死んじゃう前ね」



すももちゃんはなんでもない風に言ったけど、俺を沈黙させるには十分だった。


俺だけが座ってるように見えてる定員さんは、餡蜜を二つ俺の前に並べた。

そのひとつをすももちゃんの前に置き、スプーンを渡す。



「いただきます!」


「召し上がれ」



俺が小声でそう言うと、すももちゃんはスプーンを逆手に持ってもぐもぐと餡蜜を食べ始めた。

と思ったら、口に運ぶ手前でピタリと動きを止めた。



「すももが餡蜜食べてるとこ撮って!」


「わかった」


「ママもパパもすももが餡蜜食べてる時、すももが餡蜜食べてると凄く餡蜜が美味しそうに見えるんだって言ってたんだー」


「そっか」


「すもものぶつだんにいつも餡蜜置いてくれてるけど、ママとパパと行ったここの餡蜜が食べたくなっちゃって」



ここの餡蜜屋にテイクアウトはないみたいだった。すももちゃんのママさんもパパさんも、仕方なく別の餡蜜をお供えしてるのかもな…。



「…そっか。じゃあ撮るよ」



お店にいる人からは俺が餡蜜を撮っているようにしか見えないだろうが、写真には美味しそうに餡蜜を食べるすももちゃんが写っている。



「ありがとうおにいちゃん」


「どういたしまして」


「それじゃあすもも行くね。あ、これあげる」



すももちゃんがくれたのは、ペットボトルのキャップだ。可愛らしい猫のシールが貼ってある。

今まで幽霊にもらった切符や地名と違って、次の行き先を推測する必要がありそうだ。

ありがとうって言おうとしたときには、もうすももちゃんはいなくなっていた。


俺は同じ味の餡蜜を2皿食べ終えると、レジへと向かった。

お会計してから、余計なお世話かなと思いながらも店員さんに「あの」と声をかける。



「餡蜜美味しかったです。…その、テイクアウトとかあると嬉しいとか、言っちゃってもいいんですかね」


「確かにそうですね…お客様のご意見参考にさせていただきますね」



「あとこれ」



餡蜜を撮影してたら見知らぬ女の子が写って…と嘘をつきながらすももちゃんの写った写真を渡す。



「土地神様とかですかね?」



すももちゃんはかなりの常連さんだったみたいで、店員さんは写真を見ると悲しそうに「すももちゃんだ」と驚きながらも懐かしそうにしていた。



「この写真頂いてもいいですか?。ご家族にお渡ししたいんです」


「どうぞ」



その餡蜜屋がテイクアウトを始めることを祈りながら、のれんをくぐって店を出た。

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