第10話 結婚する?

 行為はやっぱり痛かった、なんでみんなこんなことをするんだろうと思った。確かに触れられると、こころがふんわりする。

 愛撫されると気持ちいい。だけどそのこと自体は、単なる苦痛だった。早く終わってと願ってしまった。


 でも彼が果ててその体温を、自分の体全部で受け止めると、暖かく幸せな気分に満たされた。

「ねえ、私良かった?」

「よかった、だれよりも。って言いたいけど、ごめんよくわかんない」

「なにそれ」

「わかるかよそんなもの、分かってるのは俺はフルを愛してるってことぐらいだ」

 愛してる、かあ、なんかそれだけで、ふみゃふみゃしてしまいそう。


「朝まで一緒でいいの?」

「フルがよければ」

「おばさんは」

「彼氏ができたみたい」


「ほんとに」

「おやじの、あ、義理の方ね、友人だった人で昔からの知り合いだったみたい。向こうもなんかいろいろあったみたいで、一緒になるかどうかはわからないけれど」

「そうなんだ、葵の気持ちとしては」

「幸せになってくれたらそれでいいと思ってる、姉貴もそう思っているみたいだし」


「どうするの、もし、おばさんが結婚したら」

「どっちにしても俺、高校卒業したら家出るから」

「え、どういうこと、進学するんじゃないの」

「普通の大学には、いかない、給料もらいながら寮生活という大学校が、いくつかあるんだ」

「よくわからないけど、そんなのあるの」

 遥は初めて聞いた、各省庁が持っている教育機関で、おそらく一番有名なのは防衛大学校だろう。ほかにもいくつか葵は名前をあげた。

「どこに行くの」

「最初は気象大学校って思っていたんだけど、あと一年考える」

「どこにあるの」


 関西にはどの大学校もなかった、神奈川の横須賀、千葉の柏、広島の呉、どこの大学校を選んでも離れ離れだ。

「寮なの、女の子は」

「どこも野郎ばっかりだから安心して」


 考えてもいなかった、葵の進学先は大阪から離れても京都か神戸ぐらいだと思っていた。まさかそんなところに行くつもりとは。

「卒業したら、関西に戻ってくるの」

「こともあるけど、どれもこれも全国転勤」


 泣きそうになった、そんなの。

「そんなの聞いてない」

「一緒に来ようよ、卒業したら。結婚しよ」

「え、高校を卒業したら結婚? 早すぎるでしょ仕事はどうするの」

「早とちり。大学校卒業したら、もう就職先は確定だから、結婚しよう」

「ほんと、ほんとに」

 小躍りしそうになった。


「じゃ、私も頑張る」

「そういえばフルはどこ行くの」

「日赤の看護学校」

「え、それこそ聞いていない。なんで」

「医者は無理そうだから、手に職」


 葵が何となく困ったような顔をした。

「何か不満?」

「違うけど、よく医者と看護婦ってあるからさ」

「大丈夫、私の身体は今日から葵だけのもの」

 言ってみたかった。たぶん本気。


 葵は遥を抱きしめた。

「大事にするね」

「ほんと? 浮気しない?」

「うーん、自信はないけど、努力します」

 きっと無理だろうと思う、なぜか知らないけれど葵は女性を引き付ける、彼がはねのけても、向こうから寄ってきたらなびくに決まっている。

 長い戦いが始まるけれど、それはそれで面白いかもしれない。絶対に負けない。


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あいつは浮気者 ひぐらし なく @higurashinaku

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