第8話 覚悟
遥たちの高校は、秋に学園祭がある。一週間ぶち抜きで体育祭と文化祭が行われるのだ。
これが終わると三年生は本格的に受験に向けての追い込みを始め、二年生は部活から引退する。
体育祭はクラス対抗とはなっているが、各種目よりはそれほど向きになるものもなくお笑いムードだ。それでも応援合戦や仮装行列なんかの準備は、結構大変だ。
それ以外に、体育会系のクラブは対抗リレーに出なくてはならない。サッカー部ならドリブルのように、その競技の代表的な技術を見せながらリレーでトラックを一周する。もちろん真剣勝負のわけはなく、お笑い種目だ。当然ながら登山部はリュックを背負って走るのが恒例だ。
文化祭の方は、クラスごとの展示、文化部の発表、バンドや落語のステージ等を二日に分けて行うことになる。
葵のクラスは、心霊スポットや幽霊についてという展示をやるらしい。
「で、何、夜の墓場に写真撮りに行くの? 趣味わるー」
「まあ、しゃあないわな、俺はあんまり行きたくないけど」
「そうだよね、葵は見えるんだもんね」
「うん、クラスでは話してないけど」
葵はかなり強い霊感があると話をしてくれていた。
それだけじゃなく、前に二回ほど、あちらの世界の人としたことがあると言っていた。リアル牡丹灯篭だと笑ったけれど、どこまで本当なのか。
でも葵なら幽霊にも好かれそうな気がした。恨みや悔しさも理解してくれそうなところがある。
付き合うにつれて、そのこともわかり始めた。二人の仲は今のところまだ、キスどまりだ。
それ以上進みたそうなのはわかっているけれど、遥が待ってといっているのでそこ以上進むことはない。まあそういうことをする人がほかにいるから我慢してるのかもしれない、だとしたらやっぱり妬ける。
「そういえばフルのクラスは何するの」
「パンチDEデート」
「そうなの、出ようかな」
「ぶっころす」
「冗談だって、そんなことしませんて、もし振られたら最悪だもの」
「内緒だけど、冴子先生出るよ」
「は、なんで?」
「うちのクラスの実行委員が頼んだから」
「相手は」
「知らない、気になるの」
「別に」
と、葵は言ったけれど絶対に気になっているに違いない。
相手は遥自身が決めて、出演交渉に行った。冴子先生に似合う男を選んだと思う。付き合い始めてくれたらという気が裏にあった。
結局文化祭は賑やかに終わった。冴子先生の「パンチDEデート」は体育館が満員になるほど盛り上がった。
相手はこちらも女子に人気がある体育の若い男性教師で、お約束通りハートマークがついて、ほっぺにキス。
一番楽しかったのは後夜祭。もらってきた枕木を積み上げ、火をつけキャンプファイヤー。 あちらこちらでカップルになっているもの。グループでいるもの。
「あれ、杉浦って彼女いたの」
「えー先輩じゃん」
葵の友人たちがびっくりした顔をする。
今夜並んで歩いていれば、ふたりはそういう仲だとみんなにばらすようなものだ。
おまけに遥は浴衣姿だ。午前中のジーンズの短パンとTシャツから着替えている。
「いつ着替えたの」
葵がびっくりしている。
「私だけじゃないよ、冴子先生も、山岳部の女子みんな浴衣だよ」
「一人で着られるのみんな、すごいなあ」
「すごいでしょ、って嘘、冴子先生が着付けできるの」
葵が納得した顔をした。その先生はというと、体育の木更津と一緒だ。
昼間のパンチDEデートの相手だ、ヒョウタンから駒か、皆に冷やかされてまんざらでもなさそうだ。
遥は、今夜と決めていた。だから学校でオープンにしたのだ。
今日は帰らないと親には話してある。葵の家は、お母さんが留守なのも知っていた。というより、だからこそ運命のようなものを感じて、心に決めたのだ。
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