第7話 親公認

 初めてのキスほんの少し唇が触れただけ。もしかしたら薫にとっては、お休みの挨拶のようなものかもしれない。

 そんなことはない、愛されてるんだ、そう思いたいけどさすがに思えない。どうしよう、明日の朝どんなかをして会おう。

 あ、キスの前に歯を磨いていなかった、口の匂いしなかったかな。

 等々いろいろのことが頭の中をめぐり、結局明け方近くまで悶々としていた。


「おはよう、何あんたひどい顔してるね」

「今日も遅いから、一人で食べてね」

「わかった」

「あ、彼氏はもう起きて、自転車を洗ってくれてるよ」


 え、っと思った。なんで、そんなに早起き。

 遥は急いで顔を洗うと、ジャージを着込み自転車置き場に来た。

「おはよう、薫、早すぎ」

「俺も起きたところだよ、でもほらフルの自転車を綺麗にしなけりゃならないと思ったから」


 ニコッと笑われてそんなことだけで胸がきゅんとした。やばい、私本当に惚れてると思うと顔が熱くなった。

「ね、ご飯食べた?」

「まだ、というよりあんまり食べないから」

「だめだよ、お握りでよかったら今作ってくる」

「ほんと、嬉しいなあ、その間にきれいにしておくから、お願いが」

「卵焼きでしょ」


 遥は家にとって返すと、お握りを作り始めた。

「おかあさん、卵貰うね」

「あらあら、昨日に続き今日も卵焼き? 好きなんだね」

「やだあ、そんなんじゃないよ自転車整備してくれてるから」

「誰があんたのこといってるのよ、薫君、卵焼き好きなんだねって言ってるの」

 あ、っと思いまた顔が熱くなった。


「おーい、薫って誰だ」

「奥の杉浦先生の息子さん、遥と同じ部活なの」

「付き合ってんのか」

「そうじゃないから」

「よしどんな奴か、自転車置き場にいるんだな」

 やめてよ、お父さん。


「フル、きれいになったよ」

 ドアを開けて自転車を担いだ薫が顔を出した。

 まずい、と思ったが遅かった。


「君か薫君とか言うのは、うちの娘をあだ名で呼ぶとはどういう関係だ」

「お父さんやめてってば恥ずかしい」

「お初にお目にかかります。杉浦薫といいます。遥さんには部活でお世話になっています。これからもきちんとお付き合いさせていただきたいと思います」


 亮は遥の自転車を廊下に置くと、遥の父親に正対しきちんと頭を下げた。

「あ、ああ、そうか、こちらこそ。娘をよろしく頼む」

「じゃあ、俺また自転車置き場にいるから」


「なんだ、まあ、なかなかちゃんとした青年だな、ま、それはそれで面白くはないが」

「ね、自分の娘を信じなさい」

「ほら、行った行った。のんびりしていると会社に遅れるよ」


 ジャージで出ようとして母親に止められた。彼氏の前に出る格好じゃないというのだ。

「ミニ、ミニスカートに決まってるでしょ」

「作業するんだよ、見えちゃうよ」

「いいでしょこの前買った可愛いパンツ見せてやれば、それぐらいで押さなきゃ負けるよ」

「誰に?」

「しらないけど、いるんでしょライバルが。負けんなよ」

 この人は何を考えているんだか、でも少なくとも薫を認めているようだ。それはうれしい、まだ自分の目が正しいのかどうか自信がないところがあったのだ。


「おまたせ、はいお手拭き」

「どうしたの、えらくかわいいかっこになって」

「へへ、似合う」

「うん、惚れ直した」

 ちょっとにやけてしまう。


「たべよ」

 二人は階段い腰を下ろすと、並んでおにぎりをほおばった。昨日のキスのことはやっぱり聞けないけれどまあいいかと思った。







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