第5話 対決

「南条は、彼をどうしたいの、どうなりたいの?」

 先生はコップのビールを飲み干すと。いきなり難しいことを言い出した。

 酔ってからじゃ面倒になるいうことで、部屋につくなり、まず風呂ということになった。パジャマなんて持ってきてないと言ったら、ものすごく大きなTシャツを貸してくれた。よくわからない変な絵が描かれている。いったいどこで買ったのか、遥も言えた義理じゃないけれど、この先生の趣味もたいがいだ。


 先生はというと、男物のパジャマをバサッと着て胡坐をかいている。

 テーブルの影で見えないけれど、たぶん丸見えだ。風呂上がりの肌はきれいなピンクでちょっとうらやましい。

 この肌でこんなふうな姿で、彼をたぶらかしたのかとちょっと怒りを覚えた。


「どうって、べつに」

「はっきりしようよ、彼とやりたいの」

 先生が生徒に言うことばじゃないよな、明らかに女VS女の会話だ。

「先生と違って、私は晩生で真面目だから」

「なに言ってんの、私だって彼が初めてだよ」


「うそ、そんなに美人でスタイルいいのに」

「ね、不思議でしょ。結婚するまでそんなことしないって思ってたもん」

「じゃ、薫と結婚するの」


 先生は、手にしたグラスをテーブルに置くと不思議そうな顔をした。そして笑い出した。

「そんなおかしいこと言いました?」

「ごめんごめん。そんなわけないでしょ、十六だよ彼は、ちゃんと食えるようになるまで待ったら、私って可哀想すぎる」


 そっか、結婚というのは、そんなリアルな話なんだ。

 好きだから一緒になって、一緒に暮らして、それだけじゃすまないということか。

「じゃあ、薫のこと弄んでるだけってことですか」

「だから、あれが弄ばれる玉?」

「わかりません」

「あの子そんなやわな子じゃないよ、あんた付き合うつもりなら根性入れないと」


 そうなのか、私はまだ彼のことがわかっていないのかもしれない。

「あいつ、付き合った女の子の数だけでもたぶんかなりのもんだよ、結局いろいろあって今は私以外いないみたいだけど」

 私は付き合っているということを、知れっと言われるとやっぱり何かなあと思う。


「でもね、あいつが不誠実というとそれはちがうみたい」

「そうなんですか、そう言われると多重人格みたいに思えちゃいますけど」

「基本的に優しいんじゃない、ほら両親がいないから」

 え、そうなのだって、お母さんが。


 遥の表情を見て、先生は明らかに、しまったという顔をした。

「聞いてなかった、まずったな」

「まだ、そんなに立ち入った話をしたことがないから」


「どうしようかな、私から聞いたってこと内緒にできる?」

「はい、彼の前でも知らないことにします」

「あ、それも大丈夫みたいだよ、彼、隠してるわけでもないから」


 つまり、まだ薫とは全く何も始まっていないということだ、どちらかというとそっちの方が傷ついた。

 デートに誘われて浮き浮きしていたけれど、何のことはない。ほんとにあいさつ代わりに誘われたようなものだった。

 先生に嫉妬するのはまだ十年早いということだったのだ。


「薫のこと、話してもらわなくていいです。彼から話してもらうよう頑張ります」

 ある意味先生に対する宣戦布告だった。




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