第4話 敵陣
いい雰囲気だと思ったのに、サイクリングデートの約束もしたのに、あの馬鹿はまた先生とどっかに行った。
二人とも私が知っているということを知っているくせに、車で迎えに来た。リュックを持っているから、山に行くに違いはないけれど、もしかしたらそれもカムフラージュかもしれない。
見なきゃよかった、そんなことより、あんな奴やっぱり関わり合いにならなきゃよかった。
夕方から出かけたから、今夜はきっと帰ってこない。
何も手につかない、あーもうやだ、涙が出てきた。
あいつは本当のところ、私のことをどう思っているんだろう。
聞きたい、問いただしたい。でもそれをやると、うっとうしい女と思われる。もともと付き合っている相手がいることを承知で、のめりこんだのだ。
朝まで結局寝たのか寝なかったのかが、わからない様な夜を過ごしてしまった。
このままだと健康にも美容にもよくない。まあ美容はどうでもいいけれど。
遥は直接ぶつかることに決めた。決戦は月曜日だ。
「先生お話があるんですけど」
「やっと来たわね」
中臣先生は、口の端にちょっとだけ笑みを浮かべた。
「今夜、うちに来れる?」
「え、先生の家にですか?」
まさかの展開だった、家に呼び出されるとは思っていなかった。
「だって、ここで話すわけにいかないでしょ」
それはそうだ、職員室で教師と男の取り合いをするほど馬鹿ではない。
「あなたの家には私から、電話しておくから、遅くなれば泊っていけばいい」
え、それは。
「怖い? 大丈夫よ、ちゃんと無事に返してあげるから。殴ったりけったりはあるかもしれないけど。もちろん冗談よ」
えーっと、冗談に聞こえないんですけど。
結局行くことにした。一度家に帰り、着替えをもった。明日の授業の用意は学校のロッカーにおいてある。というより教科書はすべてその中だ。男子の中には、体育のジャージもそのまま放り込んでいるやつもいる。
H高は入学するときに、三年間使う自分のロッカーを購入する。一番小さなコインロッカーほどの金属のロッカーは、三年間同じ場所に設置されている。だから、クラスが変わっても一年の時の同級生とは登下校時に顔を合わす。遥はいじめもいじめられもしない普通の生徒だからいいけれど、嫌な奴がいたら最悪だなと思うことがあった。
ちなみに葵のロッカーは一つ向こうの渡り廊下の、ほぼ同じ場所にある。十二組の場所。同じ高校だとわかって何組だろうと探したら、おなじだった。それから毎朝、葵の顔を見るのが楽しみになっていた。
眺めているだけ、我ながら、暗いやつだと思う。
「泊り? 葵君と一緒?」
「先生から電話来なかった?」
「そんなの誰かに頼んだかもしれないじゃない」
その手があったか。今度使おう、っていつの話だ。まだ泊りどころか、キスもしていない。
「それ母親が言う?」
「気を付けてね、ちゃんと避妊するのよ」
ったく馬鹿、何言ってんだか。それができないから悩んでるんじゃないか。
待ち合わせは鶴橋の駅だった。そこから国鉄の環状線に乗り換えて、桃谷に。駅の近く、のマンションとは名ばかりのアパートが、先生の家だった。まあ、風呂とキッチンはあるからましな方かもしれない
そういえばこの近くに、有名な自転車屋さんがあるな、ふとそんなことを思い出した。今度葵と来よう。
買い込んできた総菜を並べ、机には缶ビール。あの、未成年なんですが。
「男の取り合いの話だよ、飲まなきゃできるわけないじゃん」
先生は、本気とも冗談ともつかないことを言った。
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