第2話 呼び出すことに
一応自己紹介はしたが、どうも自分のことは認識されていないようだ。というより葵は、今付き合っている女の子、真美とのことでドタバタしている。彼女が引っ越したらしい。
別れたのかなとも思ったけれど、何かケロッとしている。普通はもう少し落ち込むだろうと思っていたら、あっという間に次の女を見つけたらしい。
それもよりによって、年上。相手のことはまたまた遥はよく知っていた。
そう部活の顧問と付き合い始めたのだ。中臣冴子、大学を出てから二年目。奈良女を出た英語の教師。
生徒も教師も、多分学校中の男性で、彼女に誘われて断る奴はいないだろう。
その先生が、車を運転して葵を迎えに来たのだ。
私の家が、ここということを知らないのか、色ボケで忘れているのか。
せっかく、真美がいなくなったというのに。
また部屋の下で、葵がいちゃつくのを見せつけられることになった。
中臣先生が来るまで迎えに来た日、葵はザックを担いでいたから、どこか山に言ったのかもしれない。その日、葵は帰ってこなかったみたいだ。
テントに泊ったか、どこか宿を取ったか、とにかく次の日先生が彼を送ってきたときの態度ではっきり分かった、ふたりはやったと。
その夜、眠れなかった、いろんなことが頭の中でぐるぐる巡った。
もう気にするのもやめようかなと思った、だけど、やめようと思えば思うほど、気になってしまう。それどころかなぜかボロボロ涙が出た。
「杉浦君、帰りちょっと付き合って」
月曜日に遥は、とうとう行動に出ることにした。こんな気持ちのままでいるのは自分らしくないと思ったのだ。
「わかりました、遥さんのご命令とあれば、お付き合いします」
「杉浦君、私の名前知ってるの?」
少しばかり驚いた、自分のことなど眼中にないと思っていたのだ、何となくそれだけで顔がゆるんでしまいそうになって、慌ててしまった。
「どこに行きますか」
「オレンジでいい?」
オレンジとはH高生のたまり場の喫茶店だ。学校の裏門からすぐということもあって、堂々と授業さぼって休んでいるものも、部活の帰りに、特製のナポリタンを食っていくものもいる。
オレンジで逢うだけなら、カップルで行ってもうわさにもならない。それほどオープンな場所なのだ。ある意味、部室で話しているのと変わらない。
遥はパフェを頼むと、葵は紅茶を頼んだ。
「先輩それ旨そうですね、一口ください」
葵は遥の持っていたスプーンをとるとパフェを口に運んだ。
え、間接キス。え、え。気にならないの。
「杉浦君、気にならないの」
「何をですか」
遥はスプーンを指さした
「あ、間接」
「し、」
慌てて口に人差し指を当てた。顔がほてってくる。
ドキドキするが、食べないのはもったいない。スプーンを口に運ぶと葵はにっこり笑った。その笑顔につい引き込まれそうになった。ヤバいこれがこいつの手か。
「話って何だったんですか」
「顧問の話、週末どこ行ったの?」
葵の顔が、明らかに狼狽した。
「出ようか、さすがに、ここじゃ話せない」
取りあえずパフェを食べ終わってから二人は店を出た。
「どこへ行きますか」
「君の家」
「は? 俺の家知ってるんですか」
「あたりまえでしょ、同じ棟に住んでるんだから」
「え、市営住宅に?」
「そ、だから君と真美のことも知っているよ」
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