生きてる

 最近、夜に眠れなくなりました。 

 理由ははっきりとしています。でもその分だけ、自分でもどうしたらいいのか、分からないです。


 一人で寝ていると、手や足をどのようにして休ませればいいのか分かりません。今までは母に抱きついていたからでしょうか?


 初めのうちは、落ち着く姿勢を求めて、何度も寝返りを繰り返していました。でも、一向にみつからなくて、疲れるだけなので、今では仰向けになり、天井を見上ながら朝になるのを待ちます。


 夜はいつも静かで、平和です。

 ながいながい、朝までの時間は退屈ですが、自分を整理するには、うってつけの時間でした。

 

 目を閉じれば目蓋まぶたの裏側に、過去が映ります。

 そのほとんどが楽しい思い出で、だからこそ、最後の出来事がわたしにしがみつくのでしょう。

 

 目を開けて、姿勢を横にすると、隣で寝ているお姉ちゃんが視界に入りました。

 

 こちらを向いて寝ているこの人は、呼吸をしているのか不安になるくらい、静かで、まったく動きません。


 微動だにしない、目の前で寝ているこの人を見ていると、母が亡くなった日の事を思い出します。


 冷たい身体、硬くなっていく皮膚、息をしていない口、こちらを向いて、少しだけ開いた目蓋から覗く焦点のあっていない目。それら全てを、今でも鮮明に思い出すことができます。


「生きて、いますよね」


 不安は、無意識に言葉になってしまいました。幸いなことに、お姉ちゃんは起きなくて、ほっとしたのと同時に、少しだけ残念にも思いました。


 手を伸ばして、隣のお姉ちゃんの布団に忍び込み、指先に触れたお姉ちゃんの手首を力を入れずにぎりました。


 あたたかい。今日、抱きしめてもらえた時のように、あたたかいくて、生きているのが伝わってきます。


 この人と、もっと話したい。

 

 この人のことを、もっと知りたい。そして、わたしのことも、もっと知って欲しいと、母のことを話せたあとに、そう考えるようになりました。

 

 はやく、明日になってほしいと、そう思えている自分が、嬉しくも感じながらもたまらなく恥ずかしくて、いつもよりも深く、布団をかぶりました。


 手から伝わってくるあたたかさを感じながら、目を閉じ、明日を待ちます。

 こうしていると、ごちゃごちゃとにごっている頭の中が自然と落ちついて、目蓋がゆっくりと重くなっていきます。


 あれほど変わりたいと言っておきながら、やっぱり一人で眠る事は難しくて、でも誰かと一緒だと目を覚ました時に一人になっているのでは無いかと、怖くなってしまうのです。

 

 それでも、そばにいると言われたことや、この“あたたかさ”のおかげで、今は昨日までよりも落ち着いていられました。


 ごめんなさい、と薄れ行く意識の中で誰かへと謝りました。


 必ずこれから変わるので、一人でも生きていけるようになるので、だから、今だけは眠らせてほしいのです。

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