第6-5節:驚愕するタック
僕は振り返ると、目を指で擦りながらミューリエに駆け寄った。
今の彼女は探索をしていた時とは打って変わって穏やかな瞳を僕に向けている。もちろん、以前の優しい雰囲気も漂っていて温かい。頑張って良かったと心の奥底から思える。
「ミューリエ、僕はタックさんのところへ自力で辿り着いたよ! だからこれからも一緒に旅を続けてくれるよね?」
「もちろんだ! そういう約束だったからな。だが、まさか本当に成し遂げるとは思わなかったぞ? 人間は大した力がない反面、思いも寄らぬ奇跡を起こしたりする。面白いものだな」
「必死になればなんとかなるんだよ!」
「どうかな? きっとアレスだからこそ達成できたのだ。もっと自分を誇れ」
「ふふっ、僕はそんな
正直、僕はギリギリの状態だ。ここへ辿り着くまで、運が良かった面もあると思う。だからこそ、あらためて気を引き締めてタックさんの試練に臨まなきゃ。
僕は手で軽く頬を叩いて気合いを入れると、意を決して大広間を進んでいく。
「タックさん!」
「……ん!?」
タックさんは初めて出会った時と同じ場所で寝転んでいた。こちらの存在に気付くと、大あくびをしながらヒョイッと起き上がる。
そしてやや不機嫌そうな顔をしながら僕を睨む。
「なんだ、お前か……。まだいたのか? オイラに何の用だ?」
「試練を受けに来ました」
「はぁっ? オイラは言ったはずだぞ? 自分の力だけでここまで来いって。それが出来ない限りはお断りだ! さっさと帰れ!」
「僕は自分の力だけでここへ来ました。本当です」
「その通りだ。私は何も手出しをしていない。アレスは自力でここへ辿り着いた。よって試練とやらを受ける資格はあると思うが」
そのミューリエの淡々とした様子にタックさんは真実味を感じたのか、目を丸くして
「う、嘘だろッ!? だってあれからそんなに時間は経ってないじゃないか! それなのに急に強くなるなんてあり得ないっ!」
「フッ、それは違うな」
「違う……だと……? どういう意味だ?」
「アレスには元々それだけの力があったということだ。それならきっかけさえあれば、短期間で化けることは充分あり得る。男子三日会わざれば刮目して見よ――ということだ。貴様自身が確かめてみるがいい」
「…………。ふーん、なるほど……。それは興味深いな。状況はよく分からないが、彼が自分の力だけでここまで辿り着いたというのは嘘じゃなさそうだ。分かった、再挑戦を認めてやるよ。せいぜい頑張ることだな~☆」
タックさんはニタリと頬を緩めた。どことなく満足げな感じでもある。ようやく僕は『勇者候補』として第一歩を踏み出したというところだろうか。
だったら次は『勇者』としての第一歩を踏みしめるため、なんとしてでもタックさんの試練を乗り越えてみせる。
「アレス――だったか? 準備は良いな? いっくぜ~☆」
タックさんは手振りで空中に印を描いていった。やがてその軌跡は光を放ち始め、魔方陣を形作っていく。それはまるで光の壁のようにも見える。
徐々に揺らぎ始める周囲の空間。小刻みな空気の振動と地鳴りにも似た
初めてここへやってきた時にタックさんから聞いた話によると、僕は彼の召喚する『鎧の騎士』を倒さなければならないらしい。それが勇者の証を得るための試練。そして命までは取られないけど、攻撃によって瀕死の重傷を受けることはあるんだとか。
つまりあの魔方陣から『鎧の騎士』が出てくるのだろう。どんな相手なのかは分からないけど、デビルバットたちよりも弱いということはないだろうな……。
なんにせよ情報が少なすぎるから、スライムと対峙した時と同じように冷静に状況を分析してみよう。
僕は念のためすぐに動きが取れるよう身構えつつ、魔方陣へ視線を向け続ける。
「ゴァアアアアアアァ……」
どこからか響いてくる
体は黄銅のような色と質感の金属で出来ていて、見た目は全身鎧そのもの。それが意思を持って勝手に動いているような感じ。顔の部分は黒い霧のようなものに満ちていて、目の部分だけが不気味に赤く光っている。
書物で読んだことがあるけど、これは『リビングメイル』という実体のないモンスターの一種じゃなかろうか?
魔法力によって命を吹き込まれた『この世にあらざる生命体』。一説には魂や悪霊などが
しかも驚くべきはその体長。『鎧』というから屈強な戦士くらいのサイズかと思っていたんだけど、この召喚獣は岩のモンスターよりもさらに一回り大きい。僕は思わず
(つづく……)
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