第6-4節:デビルバットとの戦い

 

 当然、そんな目立つ状況になれば、標的になるのは自明の理。デビルバットたちは僕に向かってまっしぐらに飛んできた。


 もっとも、前回の探索でのことを考えると、そもそも積極的にミューリエを襲おうとはしないかもだけど。彼らは弱い者を集中して狙うみたいな感じだから。


「よしっ、やるぞっ!」


 ついに僕の力を試す時が来た。意思疎通の力を使ってデビルバットたちを説得して、戦いをやめてもらおう。もちろん、彼らのスピードを考えれば、力の発動までに何度か攻撃を受けちゃうだろうけど。


 ただ、それくらいのダメージには耐えてみせる。無傷で済むとは最初から思ってないし、だからこそ回復アイテムもいくつか持ってきたんだから。それでももしやられちゃったら、その時は仕方がない。覚悟は出来ている。


 ――不安はあるけどきっと大丈夫。巨大な岩のモンスターに襲われるというピンチだって、僕は乗り越えられた。今回も絶対にうまくいく。自分を信じる!


「…………」


 僕は深呼吸をして心を研ぎ澄ませると、デビルバットたちの方へ意識を集中して念じ始めた。


『戦うのはやめよう。僕は敵じゃない。だから襲わないで』


 清らかで偽りのない気持ち――。


 親しみと慈しみと無垢な想いを彼らに伝え続ける。


 すると温かさと穏やかさが胸の中に満ちていって、まるで柔らかな雲のベッドの上でお日様の匂いに包まれているかのような感じがしてくる。僕自身もすごく心地良い。


 一方、その直後にデビルバットたちは勢いを弱めることなくこちらに向かって体当たりをしてくる。その瞳は依然として敵意と殺意に満ちていて、鋭い爪と牙が眼前に迫る。


「ギギギッ!」


「――うくっ!」


 僕は鋭いツメの攻撃を腕に食らった。服の一部が筋状に破れ、下から真っ赤な血が滲んでくる。


 ただ、傷自体はそんなに深くなくて、肌の表面に軽く切り傷が付けられただけ。痛いには違いないけど、岩のモンスターの攻撃に比べればこれくらいのダメージなら全然問題ない。今のところ、毒を受けた様子もないし。


 その場には獣臭が漂い、翼の風切り音の残像が残っている。そして彼らは空中で瞬時に切り返し、再び僕に向かって襲いかかろうとしている。


 やはり僕の力が発動するまで、まだ時間がかかりそうだ。それなら僕は彼らに対して想いを念じ続けるだけ。ここで諦めたら全て終わりだ。


『僕はキミたちと戦うつもりはない。だから襲わないで。友達になろうよ!』


「ギギギギギーッ!」


「――ぐっ!」


 今度は太ももへの攻撃。ただ、今回はさっきよりもちょっと傷が深いのか、痛みだけでなくて熱を帯びて痺れるような感覚になってくる。わずかに目まいもする。


 さすがに立っているのがツライかも。もしかして毒を受けたかな……?


 だけどまだまだ大丈夫。ここで意識を逸らすわけにはいかない。激しい動きをしなければ毒の回りもそんなに早くならないはずだし、限界まで耐えてみせる。


 僕は必死に笑みを作り、デビルバットたちに想いを伝え続ける。


『ほら、僕は攻撃をしないよ。安心して。友達になろう』


「ギ……ギギ……」


『……僕のところへ……おいでっ!』


 心の底からの素直な気持ち。両手を広げ、満面の笑みを浮かべながら最大限の親しみを込めて想いを解放する。


 するとこの上ない心地よさが僕の全身を包み、温かな光が僕を中心に波紋となって広がっていくようなイメージが頭に浮かぶ。


 その直後――


「デビルバットたちの動きが止まっただとっ!?」


 驚愕したようなミューリエの声が後ろから聞こえてくる。


 事実、デビルバットは攻撃するのをやめ、僕の肩や頭の上に止まって翼を休めている。もはや敵意も殺意も完全に消えている。


 ――やっぱり僕の力、モンスターにも通用するんだ!


「もしかしてこれはアレスがやったのか? ……そうか、熊を退けた時の力だな!」


 ミューリエは確信に満ちたような瞳になり、納得したようにポンと手を叩いた。さすが僕のやったことの詳細にすぐ気付いたみたいだ。ただ、驚いているみたいだから内緒にしておいた甲斐はあったかな。


 僕は懐から毒消し草を取り出し、それを服用しながら笑顔で頷く。


「うんっ、ご名答。モンスターにも通じるって分かったんだよ」


「なるほど、これがアレスの奥の手か! 確かにこれなら最奥部まで辿り着けるかもしれんな!」


「でしょっ♪」


「アレスよ、これはすごいことなのだぞ! 魔族であってもモンスターの使役には苦労すると聞く。それを簡単にやってしまったのだからな。やはりお前はすごいヤツだ!」


「そ、そうかな? てははっ!」


 ミューリエに褒められると素直に嬉しい。


 こうして僕はデビルバットたちとの遭遇を無事に乗り越え、洞窟の探索を続けるのだった。




 その後、デビルバットたちは僕を先導するように飛び始めた。僕の行き先が最奥部であると分かっているかのようだ。おかげで楽に最奥部への正しい道を進めている。もちろん、迷ったら困るから、分岐点ではきちんと地図を見てメモを記しているけどね。


 さらにありがたいのは、彼らが一緒にいることによってほかのモンスターに遭遇しなくなったということ。どうやらこの洞窟には単体ではデビルバットよりも強いモンスターは生息していないらしく、ゆえに襲いかかってこないのだと思う。


 おかげで体力も温存できて、これからタックさんの試練を受けようとしている僕にとっては本当に助かる。


 そしてついに僕たちはタックさんの待つ最奥部へ到着! つまりこれでミューリエとの約束を果たしたことになる。嬉しくて涙が出そうだ。



(つづく……)

 

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