第6幕:再挑戦! 勇者の試練
第6-1節:ひとりで臨む試練
その後、ミューリエが町から戻り、準備を
今や彼女が買ってきてくれた魔法薬のおかげで、走り込みをしたことによる疲労は完全に回復している。
もちろん、あの岩のモンスターが回復魔法みたいなものを僕にかけてくれていたから、それを使わなくても大丈夫だったんだけどね。ただ、その時の話をまだ彼女には内緒にしているので、そういう展開になるのも無理はない。
やっぱり実際にモンスターと対峙した時に力を発動させて、ビックリさせたい。
――周囲には足音だけが小さく響き、ひんやりとした空気が漂っている。その中をゆっくりと進んでいく。
ちなみに完全に自力での探索という意味なら、本当は灯りに関しても僕がたいまつを持つなどの対応しなければならないのだと思う。でもその点はサービスとしてミューリエが
なんだかんだ言っても、ミューリエは優しいな……。
「――と、ここの分かれ道は右か」
僕は最初の探索の時に記録した地図を参照しながら、通路を歩いていった。おかげで今のところは迷うことなく来られている。こういう地味な作業は僕の性に合っているのかもしれない。
また、今回の探索では僕が前を進み、後ろからミューリエが付いてきている。これはいつもと立ち位置が逆だから新鮮な気分であると当時に、強い緊張感も覚えている。
なぜなら今のところはモンスターの気配を感じないけど、洞窟内のどこかに潜んでいるのは確実だから。そして発見の遅れが命取りになることだってある。決して油断してはいけない。
…………。
一応、わずかな期間だけど基礎体力作りをして、自分の力や戦い方も認識した。現時点でやれることは最大限にやったし、ベストな状態にもなっていると思う。
ただ、そもそももし僕の『あの力』が通用しなかったら、タックさんのいる場所まで辿り着けるかどうか微妙なところだ。それが出来なかったら勇者の証を手に入れるどころか、ミューリエとの旅はここまでとなる。
逆に言えば、タックさんのところへ辿り着けたならミューリエとのパーティ解消は避けられる。さらに『あの力』がうまく使えれば、勇者の証が手に入るチャンスも出てくる。
だから最低でも最奥部には辿り着かなきゃ。死に物狂いで、
「――これでアレスとの旅も終わりだな。最奥部へ辿り着けるとは思えんしな」
歩いていると、不意にミューリエが声をかけてきた。
軽く振り向いてチラリと視線を向けると、彼女は不適に冷ややかな薄笑いを浮かべている。僕を挑発しているのか、冗談なのか、真意は掴めない。
普通に考えれば確かに彼女の言葉の内容はその通りだろうと思うし、納得も出来る。
でも今の僕には可能性を無限に広げる『あの力』がある。動物や虫だけでなくてモンスターにもそれは通用する。そういう事実がすでにあるんだ。
ミューリエはまだそのことを知らない。つい言いたくなっちゃうけど、それはギリギリまで隠しておきたい。だから僕は口から零れそうになるその言葉を必死に飲み込み、素知らぬ顔をしてほくそ笑む。
「どうかな? 奇跡が起きるかもしれないよ?」
「ほぅ? 意味深な言葉だな。何か奥の手でもあるのか?」
「内緒っ♪」
「ふふ、そうか。どうなることやら……」
ミューリエはクスッと小さく笑った。その瞳はどことなく優しくて穏やかだ。
それを見て、僕も思わずホッとして温かな心持ちになる。緊張の糸を張り続けて洞窟を進まないといないといけないというのに、まだまだ未熟だ。
だから僕はすぐに気を取り直し、周囲を警戒しながら歩を進めていく。
「アレスよ、何を考えているのかは知らんが無理はするなよ? もし私が危険だと判断したら、勝手に加勢するからな」
「えっ? その場合、ミューリエとの約束はどうなるの? ダメになっちゃうってこと?」
「残念ながらその通りだ」
「じゃ、ミューリエは絶対に手を出さないで!」
僕は少し強い口調で即答した。
だって今までの経験上、あの力は発動するまでに少し時間がかかると推測できるから。
つまり不意を衝くか、誰かのサポートでもない限り僕はある程度の攻撃に耐えないといけない。そして攻撃を受ける姿を見て助けに入られたら、全てが台無しになってしまう。
もちろん、これが試練と関係のない戦闘の時なら話は別だけど……。
当然、そんな事情を知らないミューリエは少しムッとしたような顔をして口を尖らせる。
「なんだと? 命の危機でも私の助けは不要だというのか? アレス、ちょっと基礎体力をつけたくらいで
「悔いを残したくないんだっ!」
「っ!?」
「その代わり、本当にダメだと思ったら助けを求めるから。それでいいでしょ?」
僕はミューリエの方へ向き直って懇願した。
彼女が僕のことを心配して言ってくれているのはよく分かる。だけど命を賭けてでも今回の探索はひとりで乗り越えなければならない。余程のピンチにでもならない限り、助けを借りるわけにはいかないんだ。
一歩も退かないそんな僕の様子にミューリエは瞳に当惑の色を浮かべる。
「しかしな……」
「僕、どんなピンチになっても絶対に乗り越えてみせる。だからお願い」
その場に流れる重い空気と沈黙――。
やがてミューリエは大きく息を
「……分かった。それがアレスの覚悟なのだな。そこまで言うのならその通りにしよう」
「ありがとう、ミューリエ!」
僕が喜びを爆発させながらミューリエの両手を握ると、彼女は少し照れくさそうにしていた。
(つづく……)
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