第3-6節:不安定になる魔法力
その後、僕たち3人は一緒に休憩をしながら和やかに世間話をしていた。
その際に聞いた話だと、熊に追われていた女の子はレインさんという名前で、やはり見た目から想像した通り魔法使いをしているらしい。詳細な年齢は教えてくれなかったけど、僕より少し年上なのは確かだそうだ。
それと旅の目的は魔法の修行なんだとか。もっとも、ミューリエはなぜかその話を
まぁ、僕もミューリエもまだお互いに全てのことを打ち明けていないわけだから、それも自然な対応なのかも。
「――ところで、魔法使いの女。あの程度の獣を倒せないくせに、よく今まで旅を続けてこられたな? 私たちが助けに入らなければお前の方が死んでいたぞ?」
「失礼ねっ! いつもなら魔法で難なく倒してるわよ! こう見えてもそこそこの使い手なのよ? 高位の魔族さえ簡単に滅せるんだから。ふふんっ♪」
「ほぉ……」
得意気に話すレインさんに対し、ミューリエはピクリと眉を動かした。いつになく興味深げな反応だ。今の話、どう思ったんだろう? レインさんのハッタリだと感じたのかな?
そうだよね、だって魔族って低位でもそう簡単に倒せる相手じゃないって本で読んだことがあるもん。
でももしレインさんの話が本当なら、彼女も僕たちと一緒に旅をしてくれたらありがたい。魔王討伐の旅をしている以上、いつかは絶対に魔族と戦うことになるはずだから。
見たところひとり旅のようで、誰かとパーティを組んでいる感じじゃないし――って、ちょっと待てよ? それだけの魔法の使い手だとすると、やっぱりあの疑問が湧いてくる。
だから僕はそれを彼女にぶつけてみることにする。
「あの、レインさん。そんなに魔法が得意なら、なぜさっきは熊から逃げ回ってたんですか? 魔法で対処すれば良かったんじゃないですか?」
「えっ? あ……それが……少し前から魔法がうまく制御できなくなっちゃって……。使えなくはないんだけど、安定しないっていうか。なまじ強力な魔法が使える分、暴発したら危険でしょ。こんな風になること、初めてなんだけどね」
「少し前って、どれくらい前からですか?」
「2日くらい前からかな? 急に魔力が不安定になって、ずっとそのまま。数日前にシアに着いた時は何も問題なかったんだけどね。で、いつまで経っても元に戻らないから、地域的に魔力を阻害する何かがあるのかもって思って。それで今朝、シアを離れることにしたわけ」
「……ふむ」
その時、静かに話を聞いていたミューリエが小さな相槌を漏らした。
何か心当たりでもありそうな雰囲気。そういえばたまに彼女は何か悟ったような素振りをすることがあるけど、今回もそうなのかな?
するとレインさんもミューリエの反応が気になったようで、それについて問いかける。
「ミューリエ、意味深な相槌ね? あなたも格好からするとあたしと同様に魔法を使うみたいだし、何か心当たりでもあるの?」
「いや、状況を理解して頷いただけだ。そんなことより、魔法が使えないなら剣でもナイフでも使って戦えば良いではないか。物理攻撃なら可能だろう」
「――えっ!?」
レインさんはミューリエの指摘になぜか息を呑み、激しく動揺の色を浮かべた。しかも落ち着きなく瞳を動かしながらソワソワしている。まるで痛いところを衝かれたといった感じ。
どうしたんだろう? 僕みたいに剣が使えない事情でもあるんだろうか。腕力に自信がないとか、怪我を負っているとか、何かの病気があるとか。もしそうでないなら、物理攻撃をすればいいって僕も思うんだけど。
固唾を呑んでレインさんの返答を待つ僕とミューリエ。すると程なく彼女は僕たちの視線に耐えきれなくなったかのように、顔を真っ赤にして感情を爆発させる。
「ぶ、武器を持って戦うなんて、エレガントじゃないから嫌いなの! それに熊を相手に生半可な武器で戦えると思うッ? あたしは魔法使いなの! 戦士じゃあるまいし、物理攻撃は専門外なの! いえ、戦士だとしても低レベルだったら太刀打ち出来ない相手でしょ、アレは!」
「一応、筋は通っているようだな。エレガントかどうかという部分以外はな……」
「っっっっっ! 納得してないみたいな顔ねっ?」
「さてな……」
ふたりの間に不穏な空気が漂い始めた。
ミューリエに悪意はないんだろうけど、なんでもズバズバ言う性格っぽいから、このままだと言い争いになったりケンカになったりするかも。
(つづく……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます