第3-3節:ミューリエの剣技
女の子は黒で統一されたローブととんがり帽子、ブーツ、手袋などを身に
髪は深い藍色のくせっ毛で、長さは腰の少し上くらい。それを黄色のリボンでひとつ結びにしている。また、髪と同じ色の瞳と白い肌をしていて、ミューリエとは違うタイプの美人さんというか、可愛らしい女の子といった印象だ。
見た感じ、年齢はミューリエより年下で僕よりも年上くらいかな?
一方、熊は体長2メートルを超え、刃物のように鋭い爪と牙が煌めいている。しかも丸太のような4本の脚は隆々としていて、爪だろうが牙だろうが体当たりだろうが、万が一にも攻撃をマトモに食らおうものなら即死してもおかしくない。
「誰か助けてぇ~!」
「ぐぉおおおおおぉーんっ!」
女の子の悲鳴と身の毛もよだつような熊の雄叫びが周囲にこだました。
彼女はこちらへ向かって必死に逃げてきている。ただ、熊との差はみるみる縮み、今にも追いつかれそう。熊は人間の何倍も走るスピードが速いから、当然ではあるんだけど。
でももし彼女が魔法使いなら魔法で速力を上げるとか、炎を出して熊を追い払うこととかは出来そうな気もする。
パニックになっていて、そこまで頭が回っていないのかな……?
「きゃっ!」
ハラハラしながら見ていると、最悪の事態が起きてしまった! なんと女の子は足がもつれて転んでしまったのだ。
ついに彼女に追いついた熊はゆらりと上半身を持ち上げて2本足で立ち、両前足での攻撃態勢に入る。
このままじゃ、マズイっ! あの女の子、攻撃をマトモに食らっちゃう! そうなったら確実に終わりだ!
「ミューリエ、どうしようっ!?」
「任せておけ! あの程度の獣、蹴散らしてくれるッ! ――はぁああああぁっ!!」
ミューリエは即座に熊の方へ駆けていった。
そのスピードは瞬く間に最高速まで達し、動きは急降下するハヤブサのようにトリッキー。こんなにも相手を
そして間合いが詰まったところでミューリエは腰に差している剣を抜きつつ、そのまま上方へ大きく跳躍する。直後、躊躇することなく熊と女の子の間に落下していき、その勢いに任せて剣を振り下ろす!
その場に轟く鈍い音――。
剣の一閃は熊の前足を見事に切り落とした。熊はその切断面から血をまき散らし、苦悶の叫びを上げながら後ずさりをしてミューリエたちと距離を取る。彼の中で敵意よりも恐怖心と警戒心が勝ったのだろう。
一方、ミューリエは剣を構えたまま、熊を睨み付けて対峙している。
「娘、下がれ。あっちにいる少年のところまで逃げろ」
「う……うん……」
ミューリエに促され、女の子は目を丸くしつつも四つん這いでその場から離れた。
そしてミューリエは彼女がある程度の距離まで避難するのをチラリと横目で確認すると、今度は一気に前へと突っ込んで次の一撃を熊へ繰り出す。
熊はまさかそんな不意に突進してくるとは想定していなかったのか、戸惑ったまま動けない。
「やぁああああぁっ!」
剣は熊の腹の辺りに突き刺さったかと思うと、流れるような動きで前足や後ろ足、顔へと次々に斬撃を加える。もちろん、それを操っているのはミューリエなんだけど、まるで剣が自ら意思を持って舞っているかのようだ。
まさに
「バァオオオオオォォォーン!」
熊はついに横向きに倒れた。全身が傷だらけで、地面には血溜まりが出来ている。あの状態ではおそらくもう抵抗は出来ないだろう。とはいえ、油断して不用意に近付くのも危険だろうけど。
「フッ、他愛もない。トドメだッ!」
剣を後方に引いて構えるミューリエ。切っ先は確実に熊の心臓を捉えていて、おそらくこの状態から仕留め損ねるということはない。
一方、熊は反撃することも逃げることも出来そうになくて、もはや死を待つのみだ。
…………。
でも……本当にこれでいいのだろうか……?
なんだか熊が
(つづく……)
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