第3幕:縁と想いと勇者の力
第3-1節:ふたりで歩む道
ミューリエと一緒に旅をすることになった僕は、今後に備えて武具や回復薬などの道具を買い揃えた。もっとも、僕にモンスターと戦う力がないのは変わらないから、もし戦闘になっても彼女を後方からサポートするくらいしか出来ないだろうけど。
――いや、戦いの邪魔になるから隅でおとなしくしてろって言われるかもなぁ。チンピラたちとの戦いを見た限り、彼女は中級から上級の冒険者と同じくらいに強そうだもん。実際に冒険者としてギルドに登録している可能性もあるし。
彼女はそのことについて何も話してくれていないから、いずれ訊いてみようとは思ってる。
いずれにしても、相変わらず僕には何も出来ないのが情けない……。
というわけで、戦力にならない今の僕は防御力と回避を重視しようということで、旅の服の上に革製の胸当てを装備。それと剣とは別に護身用のナイフをサブウエポンとして腰に差している。
体力とスピードと防御のバランスを考えると、それらが最適なチョイスのはずだ。
敵を倒すよりも自分が倒されない――。
それが戦闘に
やっぱり僕は……なるべく戦いたくないから……。
◆
こうして準備が整った翌日、僕とミューリエはシアの城下町を出発して西方街道を歩いていた。
次の目的地は『試練の洞窟』と呼ばれているところ。村長様の話によると、その場所では魔王の城へ辿り着くために必要な何かが手に入るらしい。旅立ちの前、シアの次にはそこへ行くように言われていたんだ。
だからとりあえずはその言葉に従って進もうと思っている。ほかに当てもないしね……。
「はぁ……はぁ……」
シアを出発してからどれくらいの距離を歩いたのかは分からないけど、なんだか足が疲れて呼吸も苦しい。気付けば僕は肩で息をしている。
しかも一歩一歩が重たくて、足を踏み出すのが嫌になってくる。抵抗感があるというか、全身の筋肉がこれ以上の運動を拒否している感覚。
でも脳だけはそれに反発して、無理矢理に『進め』と命令を出している。せめて戦い以外の時にはミューリエに迷惑かけたくないという意識があるからだろうなぁ……。
俯き加減で歩いていく僕の視界には、やや
西方街道はトンモロ村とシアの城下町を結んでいる山道と比べれば平坦だし、多くの人が通るからか少しは歩きやすい。だけどここまで全く休憩を挟んでいないから、体力のない僕にはかなりキツイ。
山道の時は自分のペースで休み休み進んでいたからなぁ。もちろん、だからこそシアへの到着まで時間もかかったわけだけど。
「町を出てから、たかだか3時間だぞ? アレスは体力がないのだな……」
顔を上げてみると、道の少し前方ではミューリエが立ち止まってこちらを見ていた。
涼しげな瞳と周囲への警戒を怠らない空気。息は全然切れていないし、疲れの色もない。シアの城下町を出発した時と表情が全く変わらないんじゃないだろうか。さすがというか、旅をしている人ならそれくらいの体力があるのが普通なんだろうけど。
きっとミューリエは僕の歩みが遅いから、呆れ果てていることだろう。申し訳なくて泣きそうになってくる。胸の奥がキュッと痛む。迷惑ばかりかけてしまって情けない。
僕なりに頑張っているつもりだけど、結果が伴わないんじゃダメだよね……。
「ご、ごめんね……足手まといになっちゃって……」
自然と瞳が潤んでくる。堪えようとしても勝手に悲しい想いが湧き上がってくる。
ただでさえこうして情けない姿を晒しているのに、涙なんて流したら愛想を尽かされるんじゃないだろうか。次の町で見捨てられるんじゃないだろうか?
「――っ! バカものッ!」
「痛っ!」
直後、僕はミューリエから頭のてっぺんにゲンコツを食らった。
力を加減していないっぽくて、目から火花が散るくらいに痛い。見た目はか弱い女の子なのに、そこからは想像もつかないような強烈な腕力だ。
こんなコトを言ったら怒られるかもだけど、書物で読んだ『オーガ』とかいう怪力のモンスターくらいに力があるんじゃなかろうか? まぁ、実際に見たことがないから、あくまでも想像に過ぎないけど。
いずれにしても今のゲンコツは痛すぎるから、少しは加減してほしいぃ……。
あぁ、ちょっぴり涙も滲んできた。悲しい気持ちによる涙はどこかへ吹き飛んで、今では痛みによる涙が涙腺を支配している。
僕が頭を擦りながら顔を上げると、そこではミューリエが柳眉を逆立てて僕を真っ直ぐに見つめている。
やっぱり僕の歩くスピードが遅いから怒っ――
「私はアレスのことを足手まといなどとは思っておらん! それなのに自分からそういうことを言うな!」
「っ!?」
「なぜ自分を
「仲……間……」
「そうだ、仲間だ! だから歩むスピードくらい合わせてやる! 疲れたのなら休め! 何の遠慮がいるッ?」
ミューリエは本気で怒っているみたいだった。でも瞳の奥に優しさや温もりも感じる。
そうか、彼女は僕の情けなさに腹を立てたんじゃなくて、彼女に対する他人行儀な接し方が気に食わなかったんだ……。
(つづく……)
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