第2幕:優しい世界と謎の少女
第2-1節:資金不足
ドラゴンと別れたあと、僕はひたすらシアの城下町へ向けて移動を続けた。竜水晶の力のおかげで空腹や喉の渇きといった問題は解消され、歩くことだけに集中できたのはありがたい。
また、大きな不安材料だったモンスターとの遭遇もなぜか全くなく、それは野宿して寝ている時も同じだった。原因は分からない。もちろん、戦わずに済んでいるのは喜ばしいことだけどね。そもそも戦闘になったら僕に勝ち目なんかないし。
いずれにしても、ひとりぼっちになってから約4日かかって、僕は無事にシアの城下町へ到着したのだった。
◆
町を取り囲むように
見上げていると首が痛くなってくる高さで、それがどこまでも続いている。しかも一つひとつのレンガが整然と積み重ねられている様は圧巻で、完成までにどれだけの時間と労力がかかっているのか想像もつかない。
さすが僕の住む地域で最大の規模を誇る城塞都市といったところか。
ちなみにトンモロ村にも段々畑などに石垣があるけど、積み方も石の形もバラバラで見た目は
もっとも、石垣の場合はそういう不規則な積み方の方が揺れや衝撃に強いらしいから、あえてそうしている可能性もあるけど……。
「それにしても、すごい人の数だなぁ。トンモロ村の何倍も人がいる……」
僕は町の賑やかさに圧倒され、目を丸くしながらついつい周囲を見回してしまっていた。
ここには整った石造りの家が数え切れないほど建っていて、道はタイルのような石で舗装されている。村にあったような木造のボロ小屋や砂利道なんかは見られない。
もちろん、町の中をくまなく探せばそういう場所もあるかもしれないけど、少なくともこうしてパッと見た範囲にはその気配がまるで感じられない。そこをたくさんの人が行き交っているのだから、好奇心が刺激されないわけがない。
人々は老若男女を問わないのはもちろん、格好も様々。生活感の溢れた普段着を着ている人や制服を着こなして剣や鎧などを装備している兵士、くたびれた感じの服を着た旅人、多くの荷物を馬に乗せて移動している商人、ローブを着こんだ魔術師――とにかくバラエティーに富んでいる。
さらに目鼻立ちや肌の色、体格などから多数の人種がいるであろうと容易に想像がつく。きっと僕のことも、みんなには『どこからかやってきた田舎者』って感じに見えているんだろうな。
「いらっしゃい、いらっしゃーい! さぁっ、採れたての野菜や果物が今日は大安売りだよー!」
幅広いメインストリートには市場が出て、あちこちから威勢のいい声が飛び交っている。そこでは商人や客たちがごったがえし、お祭りでもやっているのかというくらいの活気だ。
しかも取引されているのは食べ物や衣服、身の回りの小道具、工芸品、武具など、大抵のものは揃っている感じがする。トンモロ村にあったよろず屋とは質も量も比べものにならない。
「……ん? この匂いはっ!?」
その時、どこからか香辛料や調味料、羊肉が焼けた時の独特のいい香りなどが漂ってくる。おそらく市場のどこかに、焼いた羊肉を売る屋台が出ているのだろう。僕の口の中では勝手に唾液が溢れ出てくる。
でもそれは当然だ。だってトンモロ村では羊肉なんて新年を迎えた時とか村で誰かの赤ちゃんが生まれた時とか、何かのお祝い事がない限り食べられないご馳走だったから。
それが日常的に売られているのだから、やっぱり町ってすごいッ!
「あ……食事……か……」
そういえば、僕は傭兵たちに置き去りにされてから食事をしていなかった。竜水晶のおかげで飢えと渇きがないからすっかり忘れてたけど。
ちなみに空腹と食欲は似て非なるもので、お腹が空かないからといって美味しいものを食べたいという気持ちが消えたわけじゃない。羊肉の匂いを嗅いで唾液が溢れてきたのがなによりの証拠だ。
ただ、何かを買って食べようにも今の僕は1ルバーも持っていない。このままじゃ、宿に泊まってふかふかのベッドで眠ることも出来ない。やっぱり旅をするにはある程度のおカネがないとなぁ……。
こんなことなら少しくらいは靴の中とか、どこかに隠しておけばよかった。まさか傭兵たちが裏切るなんて思ってもみなかったとはいえ、万が一のことを考えて備えておかなかったのは僕の大きなミスだ。
「さて、困ったなぁ……。どうやっておカネを手に入れようか……」
やっぱり最初に思いつくのは、冒険者ギルドで何かの仕事を探すこと。
村にいる時に村長様から聞いた話によると、冒険者ギルドでは冒険者として登録をすれば、様々な仕事を
――というわけで、僕は道端に設置されている町の案内図を見て、冒険者ギルドへ向かったのだった。
(つづく……)
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