第2-2節:紹介状はお持ちですか?
冒険者ギルドに入ると、そこは教会の内部のような広いスペースになっていた。そしていくつものテーブルがあって、それぞれ冒険者の皆様が雑談を交わしている。
鎧を身に
その間を僕は恐る恐る通り、奥にあるカウンターへ辿り着く。そこでは受付係らしいお姉さんが何かの書類を処理していて、僕に気付くと手を止めて顔をこちらに向けてくる。
「おや? いらっしゃいませ。仕事のご依頼ですか?」
「いえ、あの、冒険者としての登録をしたいんですけど」
「そうでしたか。見た感じ、あなたは新人さんですね? 登録には紹介状が必要なんですけどお持ちですか?」
「えっ? 紹介状っ!?」
「貴族や領主、ギルドが認めた有力者、当ギルドの関係者などの紹介状です。要するに身元保証人を示す書類ですね。何か特別な実績があれば例外として紹介状なしで登録も可能なんですけど、あなたはそんな感じじゃないですもんね」
「うぐ……」
受付のお姉さんのストレートな言葉が僕の心にグサグサと突き刺さる。
確かに僕には何の実績もない。見た目にも屈強さはないし、知的な感じもない。だけどもう少し気を遣ってくれてもいいなぁと思う……。
「紹介状がないなら、申し訳ないですけど登録は出来ません。ただ、ギルド内は誰でも利用可能なフリースペースになっているので、出入りや休憩は自由にしてただいて構いません。もしかしたらですけど、ここにいれば誰かからパーティ加入のお誘いがあるかもしれませんし」
「えっ? あの、もしパーティ加入が決まったら、その冒険者さんの紹介でギルドに登録って出来たりしますか?」
「もちろんです」
紹介状が必要と聞いてギルドへの登録は難しいなと思っていたけど、そういうことなら微かだけど望みはあるかもしれない。
ただ、何の力もない僕をパーティに加えてくれる冒険者がいるかが問題だ。
そもそも僕はおカネが必要で、そのためにギルドへ登録して仕事を
…………。
うーん、どうしようかな……。
とりあえず、やれるだけやってみよう。少しでもギルドへ登録できる可能性があるならそれに賭けたいし、ダメだったらその時に次の手段を考えればいい。
僕自身に何の力もないことは誰よりも分かっているけど、万が一ということもある。縁はどこに転がっていてもおかしくない。最後まで諦めちゃいけないんだ。
――こうして僕はなけなしの勇気を振り絞ってその場にいる冒険者パーティの一つひとつに声をかけていった。そして雑用係でも荷物持ちでも何でもいいから、仲間にしてくれないか問いかける。
ただ、どこの馬の骨とも分からなくて、見るからに戦力外な僕に興味を持ってくれる人なんて誰もいない。近寄るだけで煙たがって、シッシと野良犬を追い払うかのような手振りをされることも……。
たまに会話に応じてくれたとしても、僕に戦う力がないことを知ると断られるというのが続いたのだった。
世間は厳しい――というか、これは単に僕の力不足というだけだろうな。剣でも魔法でも、何か冒険の役に立つ能力を身に付けていなければ門前払いになるのが普通だと思うから。
だからこそ、運に全てを賭けて
気付いてみれば、声をかけていないパーティはもはや見当たらない状態。つまり現状では冒険者としての登録をすることが出来ないということになる。
「はぁ……なんかドッと疲れが出てきた……」
思い返してみれば、僕は町に着いてからずっと立ちっぱなしだった。緊張の糸が緩んだせいか、全身が疲労感に襲われて
というわけで、僕は近くの空いているテーブルに行って椅子に腰をかけさせてもらった。そして背もたれに上半身を預け、力も一気に抜く。
久しぶりに座ることが出来て、体も足もちょっとだけ楽になる。
「――あ、軽食を提供している売店もあるんだ」
視線を横に向けてみると、フロアの隅には受付とは別のカウンターがあって、そこでは飲食物が提供されているようだった。もちろん有料だけど……。
また、それはセルフサービスになっていて、購入した飲食物をテーブルに運ぶのも食べ終わって食器を返却台へ片付けるのも自分でやる必要があるらしい。
ただ、様子を観察していると、中にはテーブルの上に使用済みの食器類を置きっぱなしにしてギルドを出ていく人も結構いるようだ。みんなの共有スペースだという意識があまりないのかも。
「汚らしいなぁ、もう……」
僕は別に過度な
だから僕は放置された食器類を自主的に片付けていくことにした。
さらに売店で布巾を借りて、テーブルの上を一つひとつ拭いていく。やっぱり
その後、小一時間ほどでフリースペース内のテーブルは全て元の状態に戻り、僕はあらためて椅子に座って休憩をするのだった。
するとその時、売店のお姉さんが歩み寄ってきてグラスに入ったジュースを僕の前に差し出してくる。
「お疲れ様。食器の片付けをしてくれてすごく助かったよ。このジュースは私からのサービスね。それともし良かったら、このあとも掃除や食器洗いなんかを手伝ってくれないかな? もちろん、お駄賃は出すよっ♪」
「え? あ、はいっ! 分かりました! ぜひやらせてください!」
どうやら売店のお姉さんは僕の働きを高く評価してくれたみたいだ。しかもお手伝いをすればお駄賃もくれるという。当然、僕はふたつ返事で引き受ける。
(つづく……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます