第1-3節:頼もしき傭兵たち

 

 村長様の家に着くと、傭兵たちは客間のソファーに座って談笑しながら僕たちの到着を待っていた。まるで春の日差しのような穏やかで和やかな雰囲気。ただ、僕の姿を見るなり会話をやめ、神妙な面持ちになって姿勢を正す。


 さすが傭兵、クライアントを前にしている時と仲間内だけの時とで気持ちが瞬時に切り替わるということか。これがプロ意識というものなのかも。


 ちなみに傭兵は全部で3人。事前に聞いている話では、いずれも僕と比較的年齢が近いのに世間では少しは名が知れている強者らしい。



 …………。


 弱くて何も出来ない僕なんかとは大違いだ。僕なんかとは……。


「さあ、アレスよ。皆様に挨拶をしなさい」


「あっ……は、はい……」


 村長様に促され、僕が返事をすると3人の視線が僕に集まった。


 おのずと緊張して手に汗をかき、血液が濁流のように全身を駆け巡って顔や耳が熱くなってくる。心臓が大きく跳ねて痛い。頭の中はぐちゃぐちゃで、何を言えばいいか分からない。


 とりあえず、僕はこうべを垂れながら自己紹介をすることにする。


「ア、アレスです。えと……あの……その……よ、よろしくお願いします……」


「初めまして、勇者様。私は剣士のミリーと申します。以後、お見知りおきを」


 深く頭を下げ、最初に挨拶をしてきたのは剣士のミリーさん。年齢は16歳。太陽のように輝く金髪をポニーテールにしていて、目はキリッと凛々しい。


 2年前に開催された王国主催の武術大会においては、ベテランや達人が多数いる中で準々決勝にまで勝ち残ったという。今の僕と同じ年齢の時にそこまで達しているのだから、きっと剣術に関しては天賦てんぷの才能があるんだろう。


 僕がチラリと視線を向けて遠慮がちに会釈を返すと、彼女は花が咲いたような笑顔になる。


「ミリーさんは何歳くらいから剣術を始めたんですか?」


「うーん、何歳くらいなんでしょう? 物心をついた頃にはすでに剣を扱っていましたので。もちろん、剣と言ってもナイフやショートソードの類ですけどね」


「確かに幼い子どもだと、それ以外の刀剣類は重すぎますもんね。ミリーさんが現在使っているのは片手剣ですよね?」


「ですね。ロングソードだと攻撃力は大きいですが、どうしてもスピードが落ちてしまいますので。かといってショートソードだとスピードは上がりますが、リーチと攻撃力の面で劣ります。片手剣はそれらのバランスが取れていて、私には扱いやすいのですよ」


「片手剣はミリーさんの可憐かれんさと華々しさにピッタリですね」


「っ!? あ、ありがとうございます」


 ミリーさんは目を丸くしつつ、頬を赤くして照れていた。でも本当のことなんだから照れる必要なんてないと思うんだけどなぁ。


「アレス様っ、あたしはネネだ。よろしくなっ!」


 続いて、部屋が振動するような声で挨拶をしたのは戦士のネネさん。年齢は22歳で、メンバーの中では最年長。よく日焼けした褐色の肌と隆々とした腕の筋肉で、重そうなプレートメイルを身につけている。


 丸い瞳と犬のようなクセっ毛が特徴で、雰囲気から豪快そうな性格が充分に伝わってくる。


 彼女は世界的に有名な傭兵団に所属していたことがあって、その時は部隊長を任せられたこともある戦いの達人らしい。


「ネネさんは今までにどんな相手と戦ったことがあるんですか?」


「んー、各国の軍隊はしょっちゅうだな。モンスターならドラゴンだって戦ったことがあるぜ?」


「ド、ドラゴンですかっ!?」


 ドラゴンは確かウロコが金属のように硬くて、生半可な物理攻撃では傷ひとつ付かないという最強クラスのモンスターだと本で読んだことがある。しかも体は家よりも大きいのに素速くて、翼で空を飛ぶんだとか。


 しかも彼らは人間を見ると有無を言わさず攻撃をしてくる危険な種族らしい。


「炎のブレスや氷のブレス、毒のブレスなんかを吐く危険なヤツらだ。力だって一流の戦士の何倍もある。それにあたしはお目にかかったことはないが、魔法を使う種類もいるらしい」


「ネネさんはよく無事でしたね……」


「ん? 無事じゃないよ。運良く倒せたってだけさ。その時は傭兵が何人もいたし、回復や補助の魔法を使う仲間がいたからな。それでもギリギリだった。あたしもあばらが何本か折れたし、あちこち火傷した」


「それでもドラゴンを倒したことは間違いないんですよね? 尊敬しちゃいますよ」


「そ、そうかっ? はははっ♪」


 ネネさんは誇らしげに自分の腕をさすっていた。


 それは照れ隠しの仕草なのかな? 豪快な彼女の意外な一面というか、通常時とのそのギャップが可愛らしいと感じる。



(つづく……)

 

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