《第四週 今週は、委員会ないの?》
お盆だから委員会はない。この前帰るときに「来週はないから気をつけて」と言われた。知らなかったので、教えてもらえなかったら暑い中無駄に歩くところだった。夏休み前の集まりで沖藤先生が伝えていたらしい。多分学年一位を前にしてパニックになっていたときだ。さらに聞くと、八時から来てもいいらしく、坂東碧生は八時から図書室で勉強をしているのだという。
「今週は、委員会ないの? 水曜日の九時からとか言ってなかったっけ」
お母さんが聞いてくる。私が出るときにはもういないのに、よく把握しているなと思う。
「ないよ。お母さんと一緒で今週はお盆休み」
「お盆くらいは休みにしてもらわないとね」
「休みの日は好きなように過ごしなよ」
おばあちゃんとおじいちゃんが優しく声をかけてくれる。ありがとうと小さく笑って、私は自分の部屋に行った。
例の理科のワークを机に広げて解き進めようとしたときに、シャーペンをまだ調べていないことに気がついた。
調べてみるだけ、とスマホを手に取り、検索してみる――マリンという種類のシャーペンはなかった。
去年買ったというから、もう売られていないのかもしれないな。別に今新しいシャーペンは必要ないからよいのだが。
スマホを置いて、理科のワークに戻ろうとしても、なぜか坂東碧生が頭から離れない。井上ひかりなのにね、といたずらっぽく言われたあの声が思い出される。私たち、よくしゃべるようになったな。いつだ。もう二週間前か。胸がきゅっとする。
寂しいな。
「え」
私以外誰もいない部屋で、誰かが何かを返してくれるわけもなく、私の声がそれこそ寂しく聞こえた。
寂しい?
原因を探る。探るも何も、坂東碧生を思って言ったとしか考えられなかった。
私は人を好きになったことがない。恋愛対象として誰かを見られない。恋バナなんて聞くことしかできない。誰が好きとかが、ない。一緒に盛り上がれない。
誰かを好きになるって、こういうことなんだろうか。こんなにも柔らかくて優しくて甘酸っぱいんだろうか。
わからないけど。わからないけど、好きだ。
決めたら止められなくなってしまった。
誰にも言えないけど好きだ。あの声も、物を大事にできるところも、アドバイスをくれるところも、考えが深いところも、努力家なところも、全部全部好きだ。まだお互いに顔を合わせてから一ヶ月も経っていないけれど、とても惹かれる。やっぱり、寂しいな。会いたい。
来週は、早めに行ってみようか。
私は大きくため息を吐いた。しばらく勉強には集中できなそうだ。
せっかくのお盆休みだ。受験生にだって休みはほしい。勉強は一回やめよう。
リビングに戻ると、おじいちゃんが甲子園を見ていた。お母さんとおばあちゃんはお昼ごはんの用意をしていた。
「何か手伝えることある?」
おばあちゃんの料理の仕方については、お母さんよりも私の方が詳しい。私はキッチンにいる二人に話しかけた。
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