第5話義弘公、皿を洗う

お久しぶりでござる。我が主君・島津義弘公は徳川家康に負けて、敗走中に転移されたのは慶長五年から令和五年の世界へ。

現代の世界に不慣れな義弘公は、パニック状態に陥り、布団の中で震えており申した。

「おいっ、そこの不心得者!島津義弘には島津義弘公と尊称を奉り、それがしを呼び捨てにするとは何事ぞ!」

「それは、他意はござらぬ。島津義弘公は我が先祖の主君にて、尊称を奉るのは当たり前でごさる」

「さて、そちは誰じゃ?」

「物好きな、歴史大好きな薩摩藩の物知りじゃ」

「戯れ言を申すな!」

「かく言う、お主は何者か?」

「徳川家康じゃ」

本文へ。


義弘は1日中、布団の中で震えていた。幸樹が会社から帰宅すると、まだ、義弘は布団の中。

「義弘さん、大丈夫?」

と、幸樹は声を掛けた。

「お、おいどんを元の世界に戻してくいやん。こ、こん世界は怖か」

「大丈夫ですよ。さっ、夕ご飯食べましょう。新しい芋焼酎を買ってきましたから」

義弘はようやく布団から出て、大樹と一緒に風呂に入った。

「岡田どん。こん風呂釜は、誰が火を焚いているんでごわすか?」

「火?あっ、昔は五右衛門風呂でしたね。これは、これをひねるとお湯が出るんです」

と、幸樹はお湯を蛇口から出した。

義弘は石けんの匂いに、驚いた。

いい香りのボディーソープで全身を洗い、タオルで拭き、義弘用の下着と浴衣を着せた。

これは、洋子のアイデアであった。この春から先は暑くなるので、過ごしやすい浴衣を準備したのだ。


ツマミは餃子で義弘と幸樹は芋焼酎を飲んだ。焼き餃子を初めての食べた義弘は感動した。

そして、シメのニンニクチャーハン。

炊き込みご飯は知っていたが、チャーハンは食べた事の無かった、義弘は全ての料理が初めての味。

もう、この世界に転移して10日目。

洋子が皿洗いを始めた。それを見た義弘は、

「奥方、今宵はそれがしが皿洗い致す」

「えっ、皿洗い?」

「こん、四角の布で洗えばよかとな?」

「はい、スポンジにこの洗剤をちょっと垂らして洗います。でも、いいんですか?」

「おいどもんも、何せんな悪か気持ちがすっで」

洋子は暫く様子を見て、缶ビールを飲みだした。

義弘は30分かけて、食器、フライパンを見事にキレイに洗った。

それから、皿洗いは義弘の仕事となった。

あと、家電の電話当番。


トゥルルル、トゥルルル

義弘は電話に出た。

「もうす、もうす、こちら岡田屋敷……浣腸?か、浣腸は痛かでごわす」

「義弘さん、代わるよ」

短い電話を終わらせた。

「岡田どん、浣腸って呼ばれておっとな?」

「浣腸じゃ無くて、課長だよ」

「か、かちょう?」

「義弘さん、僕は結構偉い人なんだよ」

「こや、今までのご無礼の数々、お許し下され。何万石の主でごわすか?」

「年間、600万だよ」

「ろ、600万石!」

「あたや、たった60万石の主でごわす。これから、岡田様ん事を殿、いや、天下様とお呼びしもす」

幸樹は芋焼酎を飲みながら、

「殿でいいよ」

「わ、わかりもした、殿」

「義弘さん、明日は図書館に行き、元の世界に戻る方法を探しましょうか?」

「あ、有難き幸せ。と、としょかんとは?」

「書き物の蔵ですよ」

「ほほう」

「さ、義弘さん。もう一杯どうぞ」


果たして、義弘の運命は如何に?

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