7章 不意打ちはバレないからこそ効果的

 ジョーアンが教会に到着したときには、すでに日は高く昇っていた。

 見覚えのあるその場所は、彼が最初に訪れたときと同様だ。

 人の気配のないその教会の周囲を確認する。

 建物の周囲に、人影はない。

 物音すら一つとしてない。

 静寂すぎるほどのその場所は、隠れ場所を探していた今の彼にとっては打ってつけだった。

「……まあ、少しは安心、か?」

 荒い呼吸を深呼吸で整え、ゆっくりと教会の扉に近づく。

 だが、そこで気づいた。

「……なんだ、これ?」

 それは、彼の足元。

 最初に来た時にはなかった、ジョーアン以外の何者かの足跡が、教会の入口へと向かって伸びている。

 それらの事実が、彼の脳を急速に働かせた。

 そして、一つの予想が脳裏を掠める。

 何者かがここにいる、と。

「―――――っ!」

 彼の手は即座に、腰の銃に伸びた。

 装弾された弾丸を確認し、構えながらそっと扉に背を預ける。

「……」

 扉に耳を寄せる。

 分厚い扉ゆえに、中の音は聞こえない。

 それがわかっていてもやらずにいられなかったのは、彼の背筋に走る嫌な予感が働いたからか。

「……」

 深呼吸を一つ。

 覚悟を決めたジョーアンは、脚に力を籠め、

「―――――っ!」

 扉を思い切り蹴り開けた。

 カビと埃の匂いが、彼の鼻に飛び込んでくる。

 ここまでは、前と同じ。

 だがこのたださえ不快と感じる匂いに混じって、かすかに匂う鉄のような匂いが、男の警戒心を嫌でも跳ね上げる。

「……血の匂い、か」

 一歩。

 また一歩と、足を進める。

 身をかがめ、薄暗い礼拝堂へと足を踏み入れた。

 瞬間だった。

 彼の頭に、銀に輝く何かが振り降ろされる。

「……っ!?」

 だが、それが男の首に届く前に、ジョーアンの手にしたリボルバーがそれを受け止めた。

 金属音とともに、銃とつばぜり合いをしている得物が外からの光に照らし出される。

 それは、日本刀だった。

 丁寧に研がれたであろうその刀身は、見る者に美しささえ感じる魔力さえあるように思うだろう。

「おやま~。やるなぁ、お兄さん」

 心底嬉しそうな調子の、異国の言葉が紡がれる。

 腰まで届く黒髪に、東洋人にしては白い肌。

 この国ではまず見かけない、日本では巫女服と呼ばれるオリエンタルな出で立ちが、彼女の異質さをより際立たせている。

「嬉しいわぁ。この国に来て初めて、うちの刀受け止めてくれたお人に出会えたわぁ」

 柔らかく人当たりのよさそうな話し方だが、その相貌から放たれる殺気が、相対する男の心に氷に触れたかのような冷やかさを感じさせた。

「さぁて、せっかく来はったんやさかい。―――――愉しませてなぁ、お兄さん」

 女性、神薙薫は妖艶な笑みとともに手にした刃を握る手に、さらに力を込めた。

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