5章 昼食は不安感とともに

「――――ってことがあったんよ!」

「……なるほど」

 メキシコ風味の香るタコスに齧り付きながら、ケンディは対面に座るジョーアンにことのあらましを説明していた。

 銃を突きつけられた教会から、二人はダイナーに場所を移した。

 この町に唯一の食事ができる場所だけあり、飲食店であるにもかかわらず人気がない。

 カウンター席に強面の店員が一人いるが他の店員の姿さえ見えないことから、おそらく万年人手不足であろうことが伺える。

 対面席に座るケンディ達を除いて他に客もいない空席の目立つ空間に、ラジオからの軽快な音楽が虚しく響いている。

「~♪」

 朝から何も食べていなかったケンディはやっと食事にありつけたことが嬉しかったのか、先程銃を向けてきた男に対してもすでに満面の笑顔を向けていた。

 その様子を片肘ついて眺めていたジョーアンが再び溜息をつく。

「……んで、見つかったのか?」

「ぅん?」

「『配信者』って、殺し屋」

 気だるげな口調で問いかけた男は、じっと目の前の女性を観察する。

 ジョーアンがこの町に来たのも、その人物を探し出すことが目的だったのだから。

 その手がかりを持っているかもしれない彼女を黙って逃がすという選択肢は、彼の頭にはなかった。

「いんや、まったく。っていうかこの町の人、話すどころか目だって合わせてくれないし、話しかけようと近づいてもすぐにどっか離れて行っちゃうんだよ!」

 信じられない、と頬を膨らませるとケンディはさらにタコスを頬張った。

「……そっか」

「? っていうか、お兄さんはあんなところで何してたの?」

「? ああ、教会でってことか」

「そそ。あんな寂れた場所に入ろうとしてたみたいだけど、なんかあったの? てか、この町には何しに?」

「質問が多いぞ。1つに絞ってくれ。……仕事だよ、探偵の」

「へぇっ! お兄さん探偵なんだ! すごっ! 現代のホームズ的な感じ!?」

 更なるネタの匂いを感じ取ったのか、彼女の瞳の輝きが増す。

 そんな彼女の表情にわずかに引きながらも、ジョーアンは営業用の笑みを浮かべる。

「い、いや、そんな大層なもんじゃねえよ。単なる人探しさ。あんたと理由は同じだよ」

「なんだ、そうなんだ。この町ってそんなに行方不明でもいんの? 人が集めるようには見えないんだけどな~」

「……いや、俺もそう思ってたとこだ」

 いっそ、情報がガセネタだったらどれほどよかっただろうか。

 今となっては確認のしようさえないことに頭を抱えそうになりながら、カウボーイ気取りの探偵は溜息とともにキャンディーを口に咥える。

「……」

「……?」

 じっとこちらを見つめる若き配信者の視線に、ジョーアンは怪訝な表情を示す。

「なんだよ?」

「いや、その棒付きキャンディー美味しそうだなって思ってさ」

「あげねえよ」

「え~、けち~」

 不満げな声とともに、彼女はタコスの最後の一口を放り込む。

 こんな表情がころころ変わる彼女を他所に、探偵は思う。

『あれ、もしかしなくても、来る場所間違えたか?』

 その日の自分の行動がただの徒労ではないかと不安感に襲われるが、頭を振って無理やり打ち消す。

『まあ、もう少し調査して手がかりなかったらさっさとずらかるか』

 そう考え、咥えたキャンディーの棒を口から離す。

 その時だった。

 ドアベルの、音が鳴った。

 

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