第16話 知ってるけど知らない人たち

 テロ組織、アイスカイナの構成員を無力化するために街に繰り出してから二時間。

 無力化させた構成員の数は二千にも及び、さすがの私でも精神的な疲労を感じ始めていた。


「やばい、疲れてきた……回復っ!」


 まあ、そんな疲労も魔法でなくなるので、まだ余裕ではあるが。


 しかし、これではあまりにも時間がかかりすぎる。力を温存することを目的に色々と工夫を凝らしてみたが、それだと効率が非常に悪くなってしまうのだ。

 少し考えればすぐ分かりそうなことだが、私はこの考えに辿り着くまでに二時間もかかってしまった。


「どうすれば効率をよくできるんだろう……」


 構成員全員の本名が分かれば、全員を気絶させ、留置所に送るという過程を二秒で完了できるのだが、そんなものは知らないので諦める。


 アイスカイナの構成員は、全員が魔法使いだけあって、一人も銃火器のような武器を装備していない。それどころか、ほとんど全員が私服だ。その弱点を突けば何とかなりそうな気はするが、問題はその弱点の突き方だ。


 東京中に大規模な魔法を張り巡らせることはできるが、それでは一般人にも被害が出てしまう。怪我をしている人や救命活動をしている人などは、その魔法で意識を失うことで、命を落としてしまうかもしれない。


「速く動けるようにして、一人一人を処理する速度を上げる方法もあるけど、それでもかなり時間がかかりそうだしなぁ」


 やはり、一気に処理する方法を考えなければならない。


 そういえば、さきほどから私の元にやってくる木端魔法使いの数が増えている気がする。全く問題なく処理できてはいるが、一つ感じていることがあるのだ。


 それは、私に木端を差し向けている指揮官の存在だ。


 その存在がいなければ、同じ魔法使いである私が集中的に狙われるわけがない。だが、私は今まで、誰かに連絡させる暇もなく木端を無力化してきたはずだ。

 見逃すことはありえない。私の第六感は、強力な魔法のおかげで大きく発達しているのだから。


「……今も見てるな? この状況を」


 動物の目か、そこかしこにある監視カメラか、それとも、こちらに差し向けている木端の視覚か、どれを利用してこちらを見ているのかを知る必要がある。それを辿れば、このテロ行為の大元を叩くことができるかもしれない。


「さあ、どこだー?」


 周囲から徹底的に魔法の残滓を探し出す。

 アイスカイナが魔法をドカスカ使ってくれたおかげで、空気中は魔法の残滓で溢れている。だが、発動中の魔法であれば探し出すことはたやすい


「……そこのビルの監視カメラか」


 すぐ隣にあるビルの玄関口、天井付近に設置されている監視カメラから、一層強い反応がある。


「私が気付いたことに気付いてない今のうちに……」


 魔法を辿って現在地を把握することは簡単だが、どうせならもっと派手な方法で位置を割り出してやろうと考えた私は、その魔法を発動させた。


 ────ドカン!と、このビル群のどこかから鼓膜を揺るがす音が響いてきた。


 魔法を辿った先で、対戦車地雷と同じくらいの爆発を起こしてやったのだ。


 死ぬことはないだろう。これだけの組織であれば、奇襲の対策くらいはしているはずだ。

 そして、この爆発で敵指揮官の位置が分かった。


「さーてと、もうひと頑張りかな」

「止まれ! そこの魔法使い!」


 脳に響くほどの音圧で響いてきたその声に、私は体を震わせる。

 おそるおそる声のしてきた方向を見ると、見たことのある服装の、顔の知らない大人たちが、私に銃を向けていた。


「絶対、エンドストップだ……」

「隊長、今の爆発も、おそらくはあの魔法使いです」

「静止命令の意味はないな。総員、行動開始!」

「やっば!」


 なんかちょっとヤバい気配のする弾丸が飛んできたので、ホッキョクグマ並みの身体能力を生かしてそれを回避する。

 私が回避に動いている間に、三人ほどの影が走って距離を詰めてくる。今の私の身体能力でも出せない程の速度で走っているので、少し驚いてしまった。


「ちょっと待って! 私じゃない!」

「無視して殺害しろ!」

「ちょっと!」


 彼らはどうやら、私がこのテロ行為の犯人だと思っているようだ。はなはだ遺憾だが、今はとりあえずこの状況から脱しなければならない。

 すでに、私はエンドストップに囲まれている。走って逃げるのは難しそうなので、仕方なく魔法で逃げることにする。


「瞬間移────」

「魔法反応増大!」

「特殊兵装、爆気、照射!」


 魔法を使おうとした瞬間、手のひらサイズのパラボラアンテナを向けられた。

 身の毛がよだつような悪寒を感じた私はすぐに魔法の発動を中止し、雨のように浴びせられる弾丸を避け続ける。


「回避されました!」

「かなり断片クラス以上の魔法使いだな。攻撃を続けつつ、残光を何とかして命中させろ!」

「ちょっとまずいか……?」


 よく分からないが、魔法を発動した瞬間にパラボラアンテナを向けられていると、非常にまずいことになる気がする。

 この人数を捌くのは容易ではないので、私はちょっとした疲労感を覚えた。

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