第13話 これから

「おい、やめろって二人とも!」

「楽は黙ってろ! こいつも魔法使いなんだぞ! テロ組織の一員に決まってるだろ!」

「違うって言ってるでしょ! 私はむしろ、あんたたちを助けようとしてるのに!」

「うるせぇ! この校舎が燃えてるのだって、お前がやったんじゃないのか!」

「この……ッ!」


 思わず手が出そうになるほど、今の私は感情的になっていた。

 この夜という男は、よほど魔法使いのことが嫌いなようだ。それは別にいいのだが、感情に流されて私と協力することを拒んでいることが、私には到底理解できなかった。


 心の中で、もう一人の冷めた私が感情的になっている私を諫めるが、理性的になれるほどの余裕は、今の私にはなかった。


「とにかく、俺はお前にはついて行かねぇ! 行こうぜ、楽」

「……いや、俺は冥さんと行動する」

「はぁ!?」


 楽さんの返答に、夜は酷く混乱している。

 正直、この男も私と行動することは忌避するだろうと思っていた。だが、私が思っている以上に、彼は理性的なようだ。


「よく考えろよ。こんな状況下で一人になろうとするやつと、誰かと協力して生き残ろうとする人と、どっちのほうが信頼できるんだよ?」

「おい、考え直せって! あいつは魔法使いだ! 軽々と人を殺せる力を持ってるかもしれないんだぞ! 危なすぎるだろ!」

「だとしても!」


 夜が楽さんの胸ぐらを掴んだ。楽さんはそれを払いのけ、夜の目を真っ直ぐに見つめ、静かに、真摯に語り掛ける。


「……だとしても、俺は冥さんに殺されてない」

「……ッ、それは」

「お前が魔法使いを嫌う気持ちは分かる。拳銃を常に持っているような力を持ったやつらだからな、魔法使いは。そんなやつらに関わるのは、俺だって怖い」


 夜を説得するためとはいえ、私がいる前でそんなことを話すだろうか?

 喉元まで上がってきたその言葉を飲み込み、私は静かに状況を見守る。


「でも、強い力を持っている人と、そんなやつらを推定有罪とする人、どっちの方が邪悪だと思う?」

「……」

「俺は、圧倒的に後者だと思う。だから俺は、どんな能力を持っている人も、なるべくは信じてやりたい。感情の中では嫌いでもな」

「……分かった。一緒に行動するよ」


 ようやく説得できたようだ。

 とりあえず、急いで出口を探さなければならない。私はその考えを三人に伝えようと、口を開く。


「じゃあ、とりあえず外に出よう」

「分かってる。冥さん、魔法で出口はつくれないか?」

「作れるけどダメ。魔法使いは、魔法が発動した気配を察知できるから」

「なるほど、俺たちが生きているのがバレる可能性があるのか……」


 実は、魔法が使えない理由は別にあるのだが、この三人には関係ない事なので伏せておく。


 私たちは中学二年生なだけあって、校舎の構造は理解している。だからこそ、今の炎の広がり方だと、急がなければ玄関が閉ざされてしまうことも理解していた。


「楽くん、じゃあはやく出口に玄関に行かなきゃ」

「そうしよう。冥さんと夜も、急ぐよ」

「分かった」

「……」


 夜は返事をせず、無言で私たちの後ろをついてきた。多少は物分かりがよくなったようだ。

 玄関までの道のりはそれほど長くなく、三分もしないうちに、私たちはそこに辿り着いた。玄関はまだ火が広がっていない。慌てずとも、靴を履いて通り抜ける余裕はあるように見えた。


「大丈夫……なのか?」

「大丈夫。魔法の反応はないし、近くに魔法使いの気配もないよ」

「そっか、了解」


 私たちは急いで靴を履き、燃え盛る校舎を飛び出した。


 外から見た校舎は三階まで火が広がっており、さきほどまで私たちがいた教室も、もう少しで炎で燃やし尽くされそうなところまできていた。


「あぶねぇ……」

「冥さん、これからどうすればいいかな」

「そうだね……」


 学校の正門に向かって歩きながら、私はこれからの行動について考える。


 一番いいのは、エンドストップの駐屯地で保護してもらうことだろう。


 あそこにいる隊員たちは強い。木端こっぱの大半は、彼らがいれば片付けられるほどだろう。しかし問題は、木端の中でもより強い力を持った者たちだ。

 彼らの魔法の力はそこらの木端よりも強い。現に、鬼灯も以前ボッコボコにされていた覚えがある。


 アイスカイナにはそんな木端が多く所属しているはずだ。いくらエンドストップでも、人手が足りなくなっている可能性がある。そんな彼らに、子供たちを押し付けてもいいのだろうか?


「仕方ない、か」

「どうするの、冥さん?」


 雪さんが心配そうに聞いてくる。

 彼らは今、不安を感じてはいるが、現実が理解できていないでいる。実際は、彼らの友人も、慕っている先生も、みな死んでいるのだ。


 そんな彼らが現実を理解してしまえば、彼らの精神が不安定になることは間違いない。そんなときに保護してあげるためにも、安全な場所を用意する必要がある。


「せっかく校舎から出たけど、この学校で助けを待とう」

「……え?」

「今から校舎を直すから、待ってて」


 私は校舎に振り返り、右手を校舎の方へかざす。


「一時間巻き戻れ」


 そう唱えると、校舎の炎はみるみるうちに消えていった。

 炭化した柱や壁、割れたガラスも元に戻っていき、三秒後には綺麗な校舎がそこにたたずんでいた。


「これより、半径二百メートル、私が許可しない人物の侵略を禁ずる」


 この魔法は、楽さんたちには見えない形で発動した。

 私が指定した場所には透明な壁が形成され、この校舎は結界で護られたような状態に変化した。


「とりあえず、屋上に移動しよ」


 屋上に移動する理由は、人の死体がないと思われるからだ。


 三人は間抜けな顔のまま動かないが、今、私たちがいる場所も結界で護られている。私は特に急かす必要もないと考え、三人を置いて屋上へと移動していった。


「魔法って……すげぇな」

「ほ、ほんとだな」

「凄い力……ん? じゃあなんで、あんな動画みたいなことやってるんだろう?」

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