第6話 アイスカイナ

 ついさっき、俺たちの拠点に、魔法の違法使用を知らせるブザーが鳴り響いた。

 俺を含めた隊員たちは、いつも通り素早く出動準備を済ませ、冥の見張りを一人残して出動していた。


 ついでに、魔法の違法使用が冥の仕業ではないことは確認済みだ。


「場所は?」

「ここから少し離れた自然公園だ。着くのには十分くらいかかる」

「了解」


 現場に向かう装甲車の中で、判明している情報の確認と、作戦の大まかな説明を受ける。


 使われた魔法は不明。魔法の発動者も不明。

 このように、情報が一切入っていない場合は、組織犯罪の可能性が高い。


 他の隊員もそれを察したのか、いつもよりも顔に険しさが入っていた。


「けどまあ、隊長がいるから大丈夫だろ」


 しかし、そう。

 今回の出動には、花道隊長も同行しているのだ。


 隊長は体術もだが、指揮能力が本当に高い。

 彼の指揮下で、隊員に死人が出たことはほとんどない。だからか、俺は他の隊員よりも穏やかな心持ちでいられた。


 そんなことを考えている内に、俺たちは現場へと到着した。


 俺たちは車から降り、少し離れた森の中に潜み、隊員の一人が現場を双眼鏡で確認する。


「あれは……」

「使われた魔法は分かるか?」

「おそらく、洗脳かと」

「クソ、最悪だ」


 隊員の返答を聞いた隊長が悪態をつく。

 俺も薄目で現場を見てみると、公園の広場らしきところで、大勢の人間がたむろしているのが見えた。


 人数はとても数えられない。コミケを彷彿とさせるほどだ。


「あの人混みの中に魔法使いはいるのか?」

「今確認します」


 隊員がスマホのような端末を取り出し、画面を何手か操作している。


「人混みの中には……ッ、後ろっ!」

「散開ッ!」


 隊員の警告を聞き、隊長が即座に指示を下す。

 俺たちは脊髄反射でその指示に従い、体のバネをフル活用してその場からジャンプするように離れた。


「────ッ!?」


 凄まじい衝撃と砂埃が、俺の体に打ち付ける。

 さきほどまで俺たちがいた場所には自動車がフロントから突き刺さっている。


 即座に自動車が飛んできた方向を見ると、十メートルほど先に、黒いパーカーとスキニーを着た青年が立っていた。


「隊長!」

「総員、奴を拘束!」

「了解!」


 俺は即座に拳銃を取り出す。

 他の隊員も同様に拳銃を手に持ち、一人が木の陰に隠れながら、青年に向かって発砲を開始した。


 俺たちも狙いを定めて発砲する。すると、銃弾は青年の胴体にあっけなく着弾した。


「当たった……けど」


 しかし、青年は倒れない。

 それによく見ると、銃弾が青年の素肌の部分でひしゃげ、その威力を失っている。


「奴の魔法は、肉体操作系か」


 おそらく、ほかの隊員も気付いているだろう。

 俺は銃では太刀打ちできないと判断し、強く発光する弾を放つ銃を手に取った。


「ちょっと、待て待て待て」


 行動を起こそうとすると、青年が待ったの声をかけた。

 俺は気にせず閃光弾を撃とうとしたが、隊長から無線で「待て」と声がかかった。


 俺はそれを「話を聞け」という指示だと判断し、閃光弾を撃つ手をとめる。


「おお、意外と素直だな」

「何者だ」


 隊長が青年に問いかける。


「あんたが頭っぽいな。俺は荒巻あらまき


 聞いたことのない名だ。

 少なくとも、この名前で指名手配などはされていない。


「そして、反政府組織『アイスカイナ』の構成員だ」

「アイス、カイナ……?」


 これも聞いたことはない。

 わざわざ組織の名前まで晒して、なにがしたいのか分からない。


「今日は宣戦布告に来たんだが……」

「目的はなんだ?」

「あー……かっこよく言いたいけど、あまり思いつかんな。いいや」


 如月さんが、草むらに潜伏しながら荒巻に接近する。

 目の動きや立ち振る舞いから、荒巻はそれに気付いていないことが分かる。


 隊長はどうやら、目的を聞いている間に、彼のの隙を突くつもりのようだ。


「お前らの上に伝えろ。俺たちはこの東京に、魔法使いだけが住む街を作る」

「……なに?」

「拒否すれば、東京に住まう人間を皆殺しにする」

「させるかっ!」


 如月さんが荒巻の背後から、特殊兵装を持って襲い掛かる。


 ダガ―ナイフと同じ形をしているその武器が荒巻に届く直前、如月さんは、何らかの力によって五メートルほど後ろに吹き飛ばされてしまう。


「先輩っ!」

「なんだ今のは……? 何も見えなかったぞ」


 俺は思わず叫び、如月さんを助けに行こうとする。

 しかし、隊長に引き留められ、無線で声をかけられる。


「鬼灯、俺は荒巻を追い、なるべく情報を持って帰る。お前もついてこい」

「し、しかし、広場の人たちは?」

「俺たち以外の奴に任せる」

「わ、分かりました」

「お前たちも聞いていたな? じゃあ、行け!」


 隊員たちが広場に向かって走っていく。

 幸い、人を操られている状態から助ける方法はあてがある。


 俺は先輩たちのことを気にせず、目の前の敵に集中することにする。


「あんたら2人で勝てると?」

「お前さっき、銃弾は避けなかったのに、特殊兵装のナイフは迎撃したろ?」

「……ちっ、これだからジジィは嫌いだ。勘が良すぎる」

「鬼灯、お前も特殊兵装を使え。行くぞ」


 俺は特殊兵装のナイフを手に取り、荒巻に襲い掛かった。

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