第9話

『魔族?魔族がここにいるはずがないだろ?魔族は魔王国にいるはずだ』


(魔王国なんてものはない)


『え?』


(人間が攻め滅ぼした)


 動きにこそ現れていないが動揺しているのがテレパシーによって手に取るよう伝わってくる。


(人間を脅かした魔王は魔族の王。その名目で魔王国に乗り込み、魔族は人間の奴隷になったんだ)


『そんな…そんなバカな話があってたまるか』


 王国連合は勇者との取引によって莫大な損害を被った。

 

 これまで無料タダ同然で使っていた労働力を失い、奴隷が社会復帰できるように多くの資金を注ぎ込んだからだ。


 それでも取引を破ることはなかった。


 国民の目が怖かったし、何より勇者なら天罰を下せるのではないかと恐れたからだ。


 死してなお勇者の影響力は強かったのだ。


 それから数年が経つと王国は再起不能なくらい傾いていていた。沈むのを待つ泥舟状態。


 そんな中、ある王国が取引の穴を見つけた。


 それが魔族の奴隷化だ。


 勇者が提示した条件は「今いる奴隷の解放と奴隷制度の廃止」だった。


 この奴隷制度というのは当時人間に適用されていた。つまり魔族は適用の範囲外。魔族を奴隷にしても勇者との取引を破っていないのだ。


 各国はすぐに魔族の奴隷化を始めた。そうでなければ国が滅びてしまうから。


『でも魔族が人間に負けるはずないよ』


 そう。人間には勝ち目はなかった。


 あの人達がいなければ。


 



 

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