第8話

『ねぇ、あれ何?』


 人の流れに抗ってゆっくりと止まると指を指す。その指はかすかに震えていた。


 指で示された方を向く。


 そこに広がっているのは何の変哲もない街の光景だ。


(何のことだ?特に変なことはないぞ)


『そんなわけないだろ』


 いきなり声を荒げたのに驚き少し身体が浮いてしまった。


 この声は俺にしか聞こえていない。街はいつものように動いている。


(本当に何のことだ?)


『何であんな扱いの奴隷がいるんだ!』


 その声からは怒りがビリビリと伝わって来た。


 改めて指を指していた方を見る。確かに奴隷がいた。


 ボロボロな服を見に纏った鎖を足に括り付けられている。奴隷は額に傷があるようだ。強引に引っ張られている。


(そうだな)


 変なことは何も起こっていない。奴隷の扱いが雑なのは当たり前のこと。


 奴隷の体型を見てるとしっかりと食事を出しているようだ。これはむしろ高待遇とも言える。


『どうなっているんだ。奴隷制度は私が廃止したはずだ』


 その話は俺も知っている。勇者の逸話を語る上で避けて通れない有名な話だ。


 勇者は魔王を倒す任務を王国連合から引き受けた。その対価として奴隷制度の廃止及び、解放を求めた。


 その後、王国連合はすぐに施行して奴隷の存在はいなくなった。


(ちゃんと王国連合は勇者との取引を守ってるぞ)


『バカ言うな。じゃあ目の前奴隷は何なんだよ』


(あれ、魔族だぞ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る