第4話

『うるさいよ。テレパシーでも音量の概念あるんだから』


(いや、でも。え?)


 混乱して思考が追いつかない。


 目の前には黒色の甲冑を着た兵士らしき姿がある。声の主は間違いなくこいつだ。でも…


(何で頭がないんだよ)


 頭のあったであろうところには青い炎が揺らめいている。これはモンスターのデュラハンの特徴だ。


 デュラハンは魔法への耐性が高く厄介なモンスターだ。でも魔法は使えなかったはず。


 つまり目の前にいるデュラハンはかなり高レベルの個体なはず。それなら言語を扱えているのにも納得がいく。


『そうなんだよ。人間だったのにデュラハンになっちゃったんだ』


 人間のモンスター化。


 それは昔から語り継がれる未だ解明研究議題の1つ。そして今、禁止されている研究でもある。


 倫理的な観点からもそうだが、軍事的利用がなされる恐れがあるというのが大きな理由だ。


 我ながら魔法には詳しい方だと自負しているが、人間のモンスター化に成功した記録はなかったはず。


(つまり、人間がモンスターになった初めての成功例ってこと?!)


『君もだよ』


(え?)


『人間がモンスターになってればいいんでしょ』


 そう言ってデュラハンは俺の頭を掴むと軽々持ち上げた。


(もっと丁寧に運んでくれよ)


『仕方ないよ。持つところないんだから』


 デュラハンは水溜まりに連れて来ると俺の頭を傾けた。視界に水面が入る。


 そこには身体のない俺の頭だけが写っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る