腹黒いよ

 「なんだか気持ちがいいですわ〜。このまま、ここにいたいですわ」

 「そうですね。でも、みなさん心配してますから」

 「わかっていますわ」

 「あーしとしては、ここで姉さんと一緒にのんびりしていたいんだけどな〜」

 「うふふっ、わたくしもそうしたいのは山々ですけどね?」

 「もぉう! 二人とも授業サボっちゃだめですよ。ちゃんとみなさんに謝らないといけないんですから」

 「それもそうですね……しっかり、女性方々にはお詫びしませんと」

 「男の人には私と彩芽さんで謝っときますから」

 「チェー、めんど」

 「そこは、ツッコまないのですね」

 「はい!」

 「元気がよろしいこと」

 愛華、星良、彩芽は余韻に浸りながら歩いていた。愚痴る二人を星良がお母さんのように説教。あるいは、愛華を過保護に甘やかしていると、いつの間にか出入り口に着いていた。

 星良がドアノブに手を伸ばし、キキィと扉を開か放ち気乗りしない二人を促す。

 「さぁさ、戻りますよ」

 二人は気怠げな表情へと変えた。彩芽は唇をひん曲げ、愛華も目をキョロキョロさせていた。

 「どうかされたのですか? 彩芽さんはともかく、なんでお姉様までそんな顔するんですか」

 その言葉に「あ、あーしの場合は平常運転なのね」と苦笑いしていた。

 彩芽はいいとして愛華がごねるのは意外だった。

 「あの、やっぱり……もう少しだけ、ここにいては……」

 尻すぼみな声で言ってくる。瞳には微かな迷いが窺える。

 「お姉様、怖気づいているのですか?」

 「っ⁉︎」

 星良の核心をつく質問に愛華はと、目を合わせまた背けてキョロキョロする。

 それも道義か。

 お姉様は入学すぐして注目の的となった。

 生徒からはお姫様を見るかのように敬われてきた。その美麗な容姿で何人も虜にしてきた。勉強もスポーツも文武両道で、高潔で気高い存在という認識が定着していった。

 そんなお姉様をよく思わない輩も多くいた。

 被害こそないにしろ気分が良いものではなかった。

 そんな時、此度こたびの事件が起こった。

 男に触れられ、傷をつけられたお姉様は心の中の闇を晒し暴走。そのせいでお姉様の評価は随分と変わってしまった。

 教室を出る際にチョロっと聞こえてしまったのだ。この事件を利用するかのように、悪評を広げていた者たちの声を。

 「ねえねえ、見たあの泣きっ面」

 「めっちゃ荒れてたよねー」

 「お前さっき写真撮ってなかった?」

 「あるある。見ろよこの宮原さんの顔」

 「そんなもんどうすんだよ?」

 「この写真を使ってお近づきになるんだよ」

 「宮原さん傷大丈夫かな?」

 「あんくらいならコンシーラーとかファンデで消せるっしょ」

 心配の声はあれど、反愛華勢力がこれ見よがしにお姉様の評価をおとしめていた。

 この罵詈雑言の嵐は今もなお続いているだろう。

 そんな中においそれと帰れるほどお姉様は強くない。

 (だからこんなに渋っているのね)

 星良は自分の不甲斐なさに胸がきゅっとなった。

 (それは帰りたくもなくなりますよね……)

 ここで強引に引っ張って帰ったところで傷口を抉るだけ。

 (今の私になにが……)

 「彩芽さん。一つ頼みたいことがあるのですが」

 『私になにができるのか?』そう思った途端口が舌が身勝手に動いていた。

 (私はなにを?)

 自分でも意図がわからない。

 なぜ彩芽に声をかけ、頼みごとがあると言ったのか。頭ではどんな行動をとっていいかわからなかったのに。体が理解しているのか。そんなことあるはず……

 「損な役回りはごめんたぜ?」

 すると彩芽がそう言って、嗜虐的しぎゃくてきな笑みを浮かべた。拳を手のひらに打ち付け、パキパキと鳴らす。

 — —これだ。

 星良は張り付けたような笑みを浮かべた。

 そして、二人の周囲は暗転した。

 「彩芽さん。彩芽さんがもっと輝ける提案があるのですけど?」

 「それは姉さんのためになるのか?」

 「それはもう」

 「貸し、一つだぜ?」

 「ええ」

 言葉を交わすたび、嗜虐的な笑みを濃くする二人。

 それに愛華は口出しをしない。

 なぜなら、

 (わたくしの、ため……なんでしょう?)

 自分のためとわかっていたから。止めるべきたんだろうけど、止められなかった。

 巻き込みたくない気持ちもあるけど、それを言ったところで……

 (先の二の舞になるのが落ちなんでしょう……) 

 愛華は一人で考え込まず、親友を頼った。

 

 「……そういうわけで教室にいる“ゴミ”を一掃して欲しいのです」

 「そういうことなら、得意分野だぜ」

 半眼で瞳を妖しく光らせる彩芽。それを凄絶な笑みで返し、愛華への評価を陥しいれた怒りをたぎらせる。

 「ふふ、しっかり

 「楽しみにしときな」

 そう言ってひと足先に教室へと向かったと思いきや、扉を挟んで顔だけ覗かしてくる。

 「しっかし、強行手段に出るとはね〜。星良は争いを好まないと思ってたけどな〜」

 感慨深げにいいながらも、二ヒヒと歯を見せながら悪戯な笑みを浮かべている。

 「星良って意外と腹黒いよ」

 おどけた調子で言うと、

 「褒め言葉として受け取っっておきます」

 虫でも払うかのようにシッシと片手を振って、彩芽を刺客として教室に送り込んだ。

 

 悪巧みを終えた星良は愛華の前で無言でスカートを翻し、跪いた。それはさながら護衛の騎士のように。

 その姿に愛華は瞠目した。

 「お姉様。私はどんな時もお姉様の味方です」

 言って、愛華の手にチュッとキスした。

 「まぁ」

 背筋にゾクゾクとしたものを感じながら、虚を突かれたように艶っぽい声を上げる。有頂天といった感じだ。

 「星良さん……」

 「お姉様、私の唇どうでした? ぷるんとして程よく湿ってて、よかったでしょう?」

 「……台無しでしてよ」

 ジト目で蔑み気味に言ってのけた。

 きっと星良なりの慰めだったのだろう。最後のは……私への先払いのご褒美かな? なんにしろ、元気をいただいた愛華は自ら扉に入っていった。

 星良はというと、

 「お姉様のあの目、効きますね」

 興奮に身を捩っていた。

 

 二人は中に入り扉を閉めた。

 お互いの顔も認識できないほどの暗がり。うっすらと見える足元。階段に至っては輪郭が連なっているようにしか見えない。

 「星良さん。電気をお願いしても?」

 「ああ、そらならもう探してますよ」

 「あら、そうでしたの」

 星良が壁をぺたぺたと手探りでスイッチを探す。

 「この辺かな? う〜ん、こっちかな? 痛っ。くぅ〜〜〜〜」

 なかなか見つからない様子。愛華も加戦した。

 

 数分後。

 「あ、あり……ましたか?」

 「ないです」

 壁伝いに探しても一向スイッチやレバーらしきものは見当たらない。

 「仕方ありませんわ。このまま帰りましょう」

 ガタン。

 愛華が階段を下りようとすると、つま先に棒のような物がぶつかった。

 「?」

 拾い上げてみると— —掃除用のほうきだった。

 片付け忘れたのか、足元をよくみるとチリトリやら箒が数本転がっていた。これも乗りかかった船。片付けて帰ろう。そう思った愛華は用具を集めていると、

 「お姉様? 何をなさっているのですか?」

 星良が怪訝そうに問うてくる。

 「先ほど足に元にこれが当たったので、その片付けを」

 用具を見せながら言うと、星良は妙に感動した声を上げた。

 「お姉様、私が転ばないように配慮してくれるなんて」

 「え、ええ星良さんがつまずいては危ないので……ハハ」

 意図してはいないが……星良が喜んでいるのでそういうことにしよう。なんかウキウキで手伝ってくれた。

 


 余談

 「お姉様。私って腹黒はらくろいですか?」

 「星良さんのお腹は白くてむちっとしてて触りこがち抜群ですよ?」

 「そういう意味じゃないんですど……」  

 「ひゃあっ⁉︎ お姉様いきなり服捲らないでください! びっくりしたじゃないですか!」

 「え? 星良さんお腹黒なかくろいか心配そうにしてましたので……少し太りました?」

 「……」

 「そう睨まないでくださいまし。そういう子にはこうです! こちょこちょこちょ」

 「え、いや、あ、あっはははは……ちょ、お姉さ……まっはは、はは」

 「こうすれば少しはカロリーを使って痩せますよ?」  

 「も、もぉう、お姉様のえっち」

 この後、滅茶苦茶こちょこちょされて2kg痩せた。

 

 報告

 この度、誘宵ややは新しくラノベを書いてみたのでぜひ、読んでみてください。

 タイトルは『ひょんなことからロリ姉と体が入れ替わったのでセクシーなロリライフ謳歌してみた』です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

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